【衆院選後の経済政策】「デフレからの脱却」には区切り、今こそ「正しいアベノミクス」に戻らねばならない
■ 金融緩和偏重の是正が第一 具体的には、まず、金融緩和偏重の是正が求められる。2%を超えるインフレが2年以上続いているのに、短期の政策金利は0.25%、長期金利も1%未満というのはおかしくないか。 「いやいや2%のインフレ期待がまだアンカーできていないからだ」との反論もあろうが、そうした均衡状態に到達するまでの間、金融環境をゆっくり変えていこうという姿勢自体が、金融市場の元気をなくしているのではないか。 インフレになったら金利が上がる。インフレ収まったら金利が下がる。それが本来の金融市場だ。アベノミクスの下で、そうしたマーケットの感性が鈍ったのだとしたら、元気な日本経済への道はさらに険しい。 様々な思惑が交錯しつつ未来を探るという金融市場の機能が、これから日本経済がその構造を新しい環境にフィットしたものへと変えていく上では必須だ。報道をする側も、金融市場での変動は悪ではなく、その変動こそが未来への挑戦なのだという見方を、もう少し取り戻してはどうだろうか。 財政政策は、その赤字の大きさからして、すでに狭い門になっている。 繰り返される自然災害、そして長期的に不可避な大きな地震、さらには再度の感染症の拡大あるいは安全保障上の思わぬ事案も起こるかもしれない。そうした際に、必要となる大規模な歳出を国債発行で賄えるような財政状況に常にしておくことがこれからは大事だ。 他方、経済構造の改革が進んでいる過程では、摩擦的な企業の倒産、失業の発生は不可避である。その摩擦を緩和するような財政支出は非常に重要だ。
■ ビジネスの「手仕舞い」に躊躇してはいけない しかし、現在のようにインフレ率が2%を超え、労働市場がほぼ完全雇用状態であり、さらに今後、人手不足が展望されているような状況で、マクロ的な需要刺激のための財政出動は不要だ。 経済構造を大きく変えようとするときの状況判断において、マクロでみた資本の稼働率の有効性は低下する。長期的に持続できないビジネスに関連する稼働率も入ってくるからだ。 グローバル化、高齢化・人口減少、デジタル化。そうした環境変化の中で、これからやっていけないビジネスは手仕舞わなくてはならない。それこそが経済構造改革である。 そうした古いビジネスの手仕舞いのショックを和らげ、さらに新しいビジネスの立ち上げを円滑にするための財政支出こそが大事だ。リスキリング、労働市場改革等の面で、財政がすべきことはたくさんある。 そして、当面の財政赤字は、制御が大事であり、直ちに大規模な財政削減をしなくてはいけないということでもない。逆に、現在の経済構造を延命する需要刺激の財政支出は、第3の柱からすれば控えられるべきだ。 また欧米諸国は、財政支出によって次世代産業を育成する方向に舵を切っている。そうした国際環境を生き抜くためにも、分野を選んだ財政支出が求められる。最初に規模ありきで総花的な財政支出を行う余地は、現在の赤字の大きさからして全くない。 以上のように、アベノミクスの当初の発想は日本経済が置かれた環境にフィットした正しいものであったと考えられる。しかし、その実践において大きな歪みが生じたほか、政策評価の面で誤ったバイアスも形成された。