「年金納付5年延長」大改悪の批判は的外れ、60歳以降も働くサラリーマンには“得”しかなかった!
今年4月、国民年金の保険料納付期間を5年延長し65歳までとする変更案が検討されていることがニュースになった。SNSでは「改悪だ」などと批判の声が上がったが、これは専門家からすると的外れ。決して悪い話ではない。その理由を分かりやすく解説しよう。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵) ● 国民年金の保険料納付「5年延長案」は 改悪ではない 現在、国民年金の保険料納付期間は20歳以上60歳未満の40年間である。 しかしながら、今年4月、社会保障審議会(厚生労働大臣の諮問機関)において、保険料を65歳まで納付する「5年延長案」が検討されていることが報じられた。 これを受け、SNS上では「令和の年金大改悪」「5年延長で保険料100万円も払うなんて!」などネガティブな反応が飛び交った。 「大改悪」と受け止めている人たちは、「年金制度は破綻するから5年間分保険料を払わせるのだ」「5年延長になると、年金の受給も5年遅れて70歳になる」「年金額が変わらないのに保険料だけ5年分払わされる」と考えているようだが、どれも正しくない。 年金の仕組みは複雑だ。制度を維持するために数年に一度の改正を繰り返しているため、専門家でない限り年金制度を深く理解するのは困難と言える。そうはいっても、公的年金は高齢になったときに生活を支える大事なものだから、自分の身を守るためにも最低限の正しい知識を持っておきたい。 結論から言うと、国民年金の保険料納付期間の延長という改正案は、決して悪い話ではない。 専門家の多くは、なぜ多くの人がネガティブな反応をするのか不思議に思っている。意外かもしれないが、特に60歳以降、会社員として働き続ける人にとっては、「いいこと」しかないのである。 その理由をじっくり、そして分かりやすく解説しよう。
● 国民年金保険料を1年納めると 基礎年金は2万円増える 公的年金は、20歳以上60歳未満の全員が加入する定額の基礎年金(国民年金)をベースとし、会社員や公務員などが加入し、収入や加入期間に応じて年金額が決まる厚生年金の2階建てとなっている。 国民年金の加入期間は、前述したように40年間。今年度の保険料は、月1万6980円。1年あたり約20万円となり、5年延長になると約100万円の出費となる。テレビの情報番組などでは、この100万円を大きく取り上げたので、ネガティブ反応を引き起こしたのだろう。 だが、社会保障審議会のオプション試算案では、負担だけ増えるものにはなっていない。保険料納付期間が5年延長になれば、65歳から受け取る基礎年金も増える試算になっているのだ。 では、肝心の年金額はどのくらい増えるのか。 基礎年金は保険料を40年間納付して、今年度の満額は81万6000円。年金額は物価の変動により毎年見直しされるので、ざっくり満額を80万円とすると80万円÷40年=2万円、つまり、1年間保険料を納めたら基礎年金は1年当たり2万円増える計算なので、5年延長になると65歳からの基礎年金額は10万円増加する。 ここまでが年金の仕組み基礎編。ここからは、5年延長案の影響を「国民年金加入の自営業者」「60歳以降も厚生年金加入の会社員」「60歳以降働かない人」の3つの属性でそれぞれ見ていこう。 ● 3つの属性別にチェック 60歳以降も会社員なら「得」しかない! ◆「国民年金加入の自営業者」の場合 60歳まで国民年金保険料を納付して、老齢基礎年金を受け取るのは65歳から。60代前半は年金収入がないので、自営業を続ける人が多数だろう。 働いているなら、受給開始の65歳まで保険料を納付するのは自然な流れだ。それに国民年金保険料は社会保険料控除の対象なので、節税にもなる。 基礎年金だけだと少ないので、保険料を納めることで年金額が増えるなら喜ばしいと受け止める自営業者は多いのではないか。 国民年金の保険料納付期間が延長になると、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金拠出期間も延長になるメリットも発生する。