「北欧型福祉国家」は崩壊に向かっているのか…フィンランドで起こっている、良質な医療・教育を脅かす驚きの政策
国民が示した現政権への「NO!」
こうした一連のニュースは、驚きや懸念を持って受け止められているが、それに火をつけたのは、3月にフィンランド人党の28歳の国会議員がインスタグラムに投稿した写真である。そこでは、机の前に座った財務大臣のプッラが大きなハサミを手にして微笑み、その後ろを、やはり微笑を浮かべたフィンランド人党の国会議員8人が取り囲んでいた。生活を切り詰められる人達へのエンパシーが全くないこと、むしろ社会保障のカットを楽しんでいることを誇示するものとして、大きな批判が巻き起こった。ポピュリズムに典型的な表現スタイルと評した研究者もいる。 こうしたことの後、6月9日の欧州議会選挙で議員が選出されたのだが、左翼同盟が歴史的な圧勝を収める一方、フィンランド人党は惨敗した。そこには、その緊縮政策にNo!という意見表明があっただろう。それは、今後の国内政治の進展にも影響を与える可能性がある。 フィンランド銀行によると、フィンランドの負債額は他の北欧諸国に比べると非常に高いが、欧州連合の中では中程度だという。具体的に借金は2024年5月現在、1千6百2十万ユーロ(27兆3千億円)である。日本も借金が非常に多い国で、現在は1,297兆円。人口はフィンランドの約21倍だ。「世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移」によると、189ヶ国中フィンランドは51位。日本は2位である。 こうした数字から、フィンランドの右翼政権は財政赤字を口実にして、実は「北欧型福祉国家」の解体を試みていると考えられなくもない。 別の側面として、借金は真面目に返済しなければならないというプロテスタント的な倫理があるだろう。フィンランドは第二次世界大戦後、戦勝国ソ連に戦争賠償借金を完済した唯一の国である。住宅や砕氷船など、現物による支払いもあった。 また、アメリカは第一次世界大戦時、欧州諸国に融資をしたが、1931年に1年間の返済猶予を認めた。その後 、ほとんどの国が返済しなかったのに、フィンランドだけ完済し非常に感謝された。 2004年に、フィンランド銀行は「フィンランドはいかにして良い返済者という評判を得たか 借金を返済した国」という展覧会を開催している。借金を返済することが、アイデンティティの一部になっているようなのだ。