「生活保護裁判」全国に先駆け名古屋地裁で結審へ 原告指摘の“国の物価偽装”は認められるか
「バッシング」起こる社会に問題提起
なぜ国は突然のように独自の物価指数を採用し、基準部会の了承も得ないまま強引に基準を引き下げたのか。弁護団は、2012年の総選挙で自民党が公約の一つに掲げた「生活保護費の1割カット」の結論ありきで推し進めたものだと主張している。 その背景には、芸能人の親族による生活保護費の不正受給疑惑がメディアで大きく取り上げられたのをきっかけに広がった、生活保護受給者全体へのバッシングがある。 原告の一人は「生活保護というだけで『怠けている』『不正受給ではないか』と非難され、外に出るのも怖かった。今も生活保護の利用者であることを隠している人は多い」と明かす。生活保護の利用は国民の当然の権利だが、冷たい目にさらされ、保護費がカットされても堂々と異議を申し立てることが難しい状況にある。それでも、原告らは次のような声を上げる。 「バッシングも受けるが、弁護団や支援団体など応援してくれる人もいるから頑張れる。声を上げたくても上げられない人の分まで頑張りたい」「裁判の準備を通じて生活保護基準は就学援助や住民税の非課税基準、最低賃金など多くの社会保障制度にも影響を与えるものだと知った。自分たちだけでなく、多くの人に関わる問題だと知ってほしい」 自らの生活だけでなく、多くの人が安心して暮らせる社会保障制度を、と願う気持ちが原告を動かす力になっている。 こうして原告とさまざまな専門家が基準引き下げに異を唱えた今回の訴訟。特に名古屋地裁で進められている愛知の訴訟では原告側には強力な論客が揃い、支援も結集したと言えそうだ。原告側弁護団の森弘典弁護士は「審理の中に原告の主張を最大限に組み入れることができ、被告も争うことのできない事実を確定できた」と手ごたえを示す。 対して国は今のところ、生活扶助CPIの採用に関しては法律には反していない、原告はさほど余裕のない生活ではないと主張したものの、いずれも具体的な根拠に乏しく有効な反論ができていない。ただ、もし今回の措置が違法となれば、2013年からこれまでに削減された数千億円分を国が補償することになる。水面下では国を挙げて必死の対抗策が練られているはずだ。 生活保護の問題だけにとどまらず、日本の社会保障制度の行方を占う裁判だ。全国の注目が集まってほしい。 (石黒好美/nameken)