「生活保護裁判」全国に先駆け名古屋地裁で結審へ 原告指摘の“国の物価偽装”は認められるか
専門家も法廷で続々と異論
生活保護基準の引き下げについては、社会保障や統計学の多くの専門家も、手続きや内容に大きな問題があると裁判で証言している。 厚労省は削減した670億円のうち、90億円分は「生活保護基準部会」による検証結果をふまえた「ゆがみ調整」(世帯の人数や地域による保護費の偏りの調整)によるもの、580億円分は2008年から2011年までに物価が4.78%下落したことを反映させた「デフレ調整」によるものだと主張している。 しかし、生活保護基準部会の部会長代理を務めていた岩田正美・日本女子大名誉教授(社会福祉学)は、「ゆがみ調整」では扶助費をむしろ増額すべき世帯もあったと指摘。にもかかわらず、厚労省は部会に無断で根拠となる数値を2分の1にして計算し、全ての世帯を減額としたことを後で知り、驚いたと証言した。 岩田名誉教授はデフレ調整についても「生活保護基準部会では一切議論をしていない」と断言。部会の意見に基づかず生活保護費が大幅に削減されたことに「忸怩たる思い」を抱いていると語気を強めた。 さらに、デフレ調整で根拠とされた「生活扶助相当消費者物価指数(生活扶助CPI)」も争点となっている。統計学を専門とする上藤一郎・静岡大教授は、生活扶助CPIは厚労省による特殊な計算方式であり、学説上の裏付けはないとしている。 中日新聞の元編集委員でフリージャーナリストの白井康彦氏も証言に立った。白井氏は、厚労省が計算時に「パーシェ方式」と「ラスパイレス方式」という2つの計算方式を混合させたことや、テレビ・パソコンなどの家電の価格変動の影響を過大に評価した点をおかしいと指摘。「物価の下落率を厚労省が意図的に大きく膨らませた『物価偽装』であり、最悪の統計不正とも言うべき問題だ」と厳しく追及した。 生活扶助CPIを根拠とした今回の改定では、生活保護世帯とは支出構造が大きく異なる一般世帯の消費支出割合をもとに基準が決められた。山田壮志郎・日本福祉大准教授(社会福祉学)は「生活保護世帯の消費実態を反映しないで生活保護基準を決めることは、他人の家計簿を見て我が家の需要が決められるようなもの」と指摘。生活保護基準は要保護者の生活実態に基づいて定めるべき、とされている生活保護法に照らしても、適切ではないと言える可能性を示した。