日本の航空機工業界の第一人者に聞く、「国産航空機」を製造する秘策とは
民間航空機は唯一「輸入に依存している」交通機関だ。「新・航空機産業のすべて」の著者である大阪公立大学工学部 客員教授の中村 洋明氏は、「先進国である日本は航空機を自国で製造して輸出することで、国力の拡大につなげるべき」と語る。最近は、その成長の余地に着目した経産省がMSJプロジェクト後における「我が国航空機産業の今後の方向性について」という文書にて、2035年以降の国産航空機製造事業化を目指すと示した。果たしてその道筋はうまくいくのだろうか。本稿では、航空産業の第一人者である、東京大学名誉教授の鈴木 真二氏と中村氏に、国産航空機製造の戦略について話を聞いた。 【詳細な図や写真】民間ジェット旅客機のサイズ別運航機数と需要予測(注)注:販売額は中村氏加筆。(出典:一般財団法人 日本航空機開発協会(JADC)より中村氏作成)
交通機関で唯一「輸入に依存している」現状
自動車、バス、船舶、鉄道などの交通機関は、自国製造が進んでいるが、航空機はボーイングやエアバスの輸入航空機に依存している。自衛隊で使用する防衛用途の航空機では、国産で製造した事例があるにもかかわらずだ。 この状況に危機感を持つことが重要である。というのも、航空機産業は全構成部品の点数が数百万点にまでおよぶ。自動車の2万~3万点に比較すると圧倒的なことがわかる。また、航空機に関わる技術分野も多岐にわたるため、航空機産業に注力することで、国力の増大につながるのだ。 両氏は、「日本がYS-11以来の50人乗りより大きな完成民間航空機を製造できる国になるためには、根本的な意識改革と政府の推進が必要不可欠です」と語る。 国家としての取り組みの成功例では、カナダ政府とブラジル政府がある。同国はそれぞれ航空機産業を国策とすることで、ボンバルディアとエンブラエルを育ててきた。
狭胴機市場への参入と技術戦略
では、日本が改めて国産航空機製造を目指す場合、どの大きさの航空機を狙えば良いのか。両氏は、「狭胴機が適切である」との見解を示す。 一般財団法人 日本航空機開発協会(JADC)が2024年3月に公表した資料によると、2023年から2042年の新規航空機需要予測において、狭胴機は機数ベースで全体の74%を占める。広胴機は19%で、リージョナル機は7%である。販売額においても、狭胴機は57.6%、広胴機は40.7%、リージョナル機においては1.5%という数値だ。 ボーイング787、エアバスA350、COMACのC929などの広胴機市場の牙城に入り込むのは容易ではないうえ、現在国内で電動、水素燃料電池を用いて広胴機を飛ばす技術が確立されていない。電動、水素は、重量や体積あたりの出力が小さいため、狭胴機以下のサイズの機体にしか使えないのだ。 また、狭胴機の中でも大型の171から230席の需要が高いことが予測されている。狭胴機でも技術力の向上で航続距離が伸び、中型機(ボーイング767や787、エアバスA330クラス)の市場に食い込んでいくことができる。エアバス最新のA321XLRだと、航続距離は4700nm(8700km)にもなり、羽田空港からシドニー空港まで直行できる。航続距離の長い機体は燃料搭載スペースなどから大型機と決まっていたが、機体単価の低い狭胴機で航続距離が伸びれば、運用コスト面で航空会社にとって有利になる。 「世界で必要とされている航空機の中で1番需要があり、日本で動力源の開発見込みのある、狭胴機へ参入することが妥当でしょう」(両氏)