JAXAが月探査機「SLIM」によるピンポイント着陸成功を発表 探査ロボットが撮影した画像も公開
探査機の垂直方向に対して「ハ」の字を描くように搭載されていたメインエンジンは横方向に生じる推力を互いに打ち消し合うように設計されていましたが、片方を失ったことで、SLIMは横方向に移動しながら降下を継続します。高度約50mのホバリング(空中停止)を終えた時点で異常を検知した航法誘導制御系は横方向の移動を抑えるように探査機の姿勢を変更しながらメインエンジンの噴射を継続し、SLIMは自律的に着陸モードへ移行しました。 高度約5mで後述するLEV-1とLEV-2を放出したSLIMはメインエンジンの異常発生から30秒余りが過ぎた同日0時19分52秒頃、当初の着陸目標地点から東へ約55m離れた地点へ、ほぼ垂直の姿勢で接地したとみられています。接地時の降下速度は仕様(毎秒1.8~2.8m)よりも遅い毎秒約1.4mだったものの、横方向の速度や姿勢といった接地時の条件が仕様上の範囲を超えていたため接地後に姿勢が大きく変化し、太陽電池を西へ向けてつんのめったような姿勢で安定することになりました。
接地したSLIMは冒頭に掲載したLEV-2撮影の画像にもはっきりと写っています。SLIMが着陸したシオリ・クレーター(Shioli、直径約300m)付近は着陸の時点では昼の前半だったため、画像からもわかるように太陽光は東から当たっており、西を向いた太陽電池は影に入って電力が発生しない状況が生まれてしまいました。ただし、昼の後半には西から太陽光が当たるようになるため、太陽電池から電力が得られるようになる可能性があります。JAXAによればSLIMは太陽電池の発生電力が一定以上あれば動作できることから、今後の運用再開が期待されています。 着陸直後から太陽電池の発生電力が得られない状況が確認されたため、JAXAはあらかじめ用意されていた異常時対応手順を実施。着陸から同日1時50分頃にかけて探査機上のデータダウンロードや消費電力の削減を試み、同日1時50分~2時35分頃に「マルチバンド分光カメラ(MBC)」による月面の観測が行われた後、前述の通り同日2時57分にバッテリーが切り離されて探査機の電源がオフになりました。以下に掲載したのがMBCで取得されたSLIM着陸地点付近の月面の様子です。