ヒトiPS細胞から卵子と精子のもとを大量作製 京大、生殖医療研究進めるも倫理上の議論必要
命の誕生をめぐる研究が基礎研究から生殖医療研究に向けさらに踏み出した。ヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用して卵子と精子のもとになる生殖細胞を大量に作製することに成功したと、京都大学の研究グループが20日付の英科学誌「ネイチャー」電子版に発表した。培養当初の細胞数を100億倍以上も増やすことができるという。精子や卵子ができる仕組みや不妊症の原因などの解明、生殖医療を進めるうえでの研究成果と期待される。
ただ、ヒトの卵子や精子を実際につくって生殖に使う段階までには技術的、倫理的に重要な課題が多くあり、生殖医療応用までにはまだ距離がある。現在iPS細胞を使った受精卵操作は国の指針で禁止されている。今後さまざまな観点から議論が予想される。
研究グループは、京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)の斎藤通紀教授・拠点長や村瀬佑介特定研究員、横川隆太博士課程学生らがメンバー。
10数年以上の研究の蓄積の上で
iPS細胞は皮膚や血液などの体細胞に人工的に遺伝子を導入するなどし、さまざまな細胞に変化できる能力を持たせた細胞のこと。京都大学の山中伸弥教授が2006年にマウスで、07年にヒトでの作製を報告し、12年のノーベル生理学医学賞を受賞した。iPS細胞はけがや病気などで失われるなどした組織や臓器を修復する再生医療に応用されて注目されてきた。最近では新薬を探す取り組みも進む。
今回の斎藤教授らの研究成果は、山中氏の画期的なiPS細胞研究の成果を受け、さらに10数年以上にわたる独自の研究や成果の蓄積があってのことだ。斎藤教授の専門は発生生物学、細胞生物学。1999年京都大学大学院医学研究科博士課程を修了し、2009年には同研究科教授に就任。11~18年は科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業「ERATO」の研究総括を務めている。
斎藤教授らによると、卵子や精子はできる前にまずそれらのもとになる「始原生殖細胞」が受精2週後ごろにでき、6~10週後に胎児の中の精巣や卵巣で精子の手前の「前精原細胞」と卵子の手前の「卵原細胞」に分化する。