JAXAが月探査機「SLIM」によるピンポイント着陸成功を発表 探査ロボットが撮影した画像も公開
MBCは月の形成と進化の謎に迫るため、月のマントルに由来するかんらん石(橄欖石)を含んだ岩の分光観測を目的に搭載された科学機器です。着陸後はまず低解像度のスキャンを行って観測対象となる岩石を特定し、続いて高解像度の分光観測を行う予定でした。スキャンは通常なら35分で333枚の画像を取得する予定でしたが、15分で打ち切ることになったため、257枚の画像取得と送信が行われています。 MBCによる高解像度分光観測の実施は太陽電池の発生電力が今後回復するかどうかにかかっています。観測候補の岩石には相対的な大きさがイメージできる「セントバーナード」や「しばいぬ」といった愛称が付けられており、今後電力が回復した際は速やかに観測を行えるよう準備が進められています。
前述の通りSLIMは最終的に着陸目標地点から約55m離れた場所へ着陸することに成功しました。JAXAは合計14回(7領域で2回ずつ)実施された画像照合航法の結果はすべて正常に完了していて航法精度は10m程度以下、高度約50mで行われた障害物検出付近までの状況からピンポイント着陸精度も10m程度以下(おそらく3~4m)と評価しています。従来の月探査機の着陸精度がkm単位だったことを踏まえればSLIMは非常に精度の高い着陸技術を実証したと言えますし、これほどの精度を発揮したからこそ、メインエンジン1基喪失という事態に遭遇しつつもフルサクセス項目の1つである精度100m以下の高精度着陸という目標を達成できたと言えるでしょう。 ただ、従来の方法では着陸が難しい傾斜した斜面にも安定した姿勢で接地するために考案された2段階着陸(接地直前に探査機を前傾させ、主脚で接地した後に前補助脚が接地して安定する着陸方法)の挙動は、接地時の横方向速度や姿勢が仕様範囲を超えていたこともあり、今回のミッションでの技術実証はできませんでした。 また、ミニマムサクセス項目の1つである金属3Dプリンターで製造された軟着陸のためのシンプルな衝撃吸収機構の実現や、エクストラサクセス唯一の項目である月面到達後に日没まで一定期間ミッションを行うことなど、一部の工学実験目標は調査中もしくは継続中です。今後太陽光が太陽電池に当たるようになれば再び動作する可能性がありますから、もうしばらくの間はSLIMから目が離せません。今後もSLIMについては新しい情報が発表され次第お伝えします。