初めてまぶたを開けた赤ちゃんがその目で見るのは…人の顔?とても悪い視力の新生児が<顔っぽいもの>を目で追う理由
◆「倒立顔」より「正立顔」 新生児が持っている生得的な顔の検出機構は、いったいどんな情報をもとにはたらいているのでしょうか。別の研究者のグループは、選好注視法というものを用いて、それを調べることにしました。 選好注視法というのは、言葉を話すことができない乳幼児のさまざまな能力を調べるために開発された発達研究の王道とも言える研究方法で、好きなものを見つめるという赤ちゃんの特性を利用したものです。 やり方はいたって簡単で、乳幼児を抱っこし、正面のモニターを見てもらいます。そのモニターには、左右に2つの映像が映し出されており、乳幼児がどちらを好んで見るかを、その視線の方向から推定するというものです。 もし、2つの映像の間の違いがわからなかったら、両方の映像を見る時間は同じ割合になります。一方、2つの映像の間に何らかの違いを見出し、片側の情報に新奇性や親近性を感じた場合には、映像を見る時間の割合に偏りが出るはずです。
◆なぜ赤ちゃんの目は顔のような物体を追いかけるのか この方法を使って、イタリアの研究者のグループは、顔の目や口といったパーツの向きを変えたり、上下をひっくり返したりした奇妙な顔の画像をいろいろとつくり、新生児に見せて、その注視時間を比較しました(*4)(図2)。 すると、正立した顔を倒立した顔よりも長く見ることがわかりました(同図左)。この正立した顔を長く見る傾向は、目と鼻を90度回転させた変な顔でも、はっきりと現れました(同図中央)。 さらに、同じ正立した顔であれば、自然な顔でも、目や鼻を90度回転させた変な顔でも、新生児の眺める時間に違いはありませんでした(同図右)。 この研究結果からは、新生児は顔の細かい部分は見ておらず、縦長の楕円の中で逆三角形の位置に物体がある図を好んで見るということがわかります。 確かに、新生児の視力は、とても悪いのです。およそ0.01~0.02程度ではないかと推定されています。 そのため、かなりピンボケした顔しか見えていないはずで、上の方に暗い場所が2ヵ所あり、下の中央に横長の暗い場所がある、という程度の情報をもとに、その物体を追いかけて見る仕組みが生得的にそなわっているのだと考えられています。 そして、生得的に顔のような物体を追いかけることで、顔の情報が積極的に入ってくるようになり、顔の認識能力を発達させていくのだと考えられているのです。 <参考文献> *1_ Fantz, R. L. Pattern Vision in Newborn Infants. Science 140, 296-297,doi:10.1126/science.140.3564.296(1963). *2_ Goren, C. C., Sarty, M. & Wu, P. Y. Visual following and pattern discrimination of face-like stimuli by newborn infants. Pediatrics 56, 544-549(1975). *3_ Johnson, M. H., Dziurawiec, S., Ellis, H. & Morton, J. Newborns’ preferential tracking of face-like stimuli and its subsequent decline. Cognition 40, 1-19,doi:10.1016/0010-0277(91)90045-6(1991) *4_ Cassia, V. M., Turati, C. & Simion, F. Can a Nonspecific Bias Toward Top-Heavy Patterns Explain Newborns’ Face Preference? Psychol Sci 15, 379-383, doi:10.1111/j.0956-7976.2004.00688.x(2004) ※本稿は、『顔に取り憑かれた脳』(講談社)の一部を再編集したものです。
中野珠実
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