「103万円の壁」崩壊で起きること、「妻の働き控え」で世帯の手取りに1.6億円超の差
所得税の非課税枠「年収103万円の壁」について、123万円に引き上げる方針を自民・公明両党は決めた。 【全画像をみる】「103万円の壁」崩壊で起きること、「妻の働き控え」で世帯の手取りに1.6億円超の差 「女性の稼ぎ方」に大きなスポットが当たっているが、現在の深刻な男女の賃金格差は、女性が望むと望まざるとに関わらず“働き控え”して、収入増や出世のチャンスに恵まれなかったことが一因だ。しかし、女性たちが「壁」を超えて働くようになれば、世帯の手取り総額(可処分所得)は最大で約1.7億円も増えると政府のデータは示す。 この調査を率いたのは、女性の雇用や賃金の問題に取り組んできた矢田稚子(わかこ)氏だ。矢田氏は岸田文雄前首相に続き、石破茂首相の首相補佐官も務めている。女性の賃金を上げることで、肝いりの「地方創生2.0」につなげたいという石破首相の狙いのもと、政権をまたぐ異例の続投となった。 深刻な人手不足、消費低迷、そして女性が流出し少子化が進む地方の現状も「年収の壁」と無関係ではないのだ。
「妻の働き控え」で世帯の手取りはどう変わる?
2024年6月、政府が公表したデータが静かな衝撃を広げた。夫婦と子供が二人いる世帯で、出産後の妻の働き方が変わると「世帯が生涯で受け取る手取り総額」がどう変化するかを試算したものだ。 夫はフルタイムの正社員で22歳から65歳まで働くと設定。妻も22歳で就職するが、出産後の働き方は「正規雇用で65歳まで就労継続」から「いったん退職して再就職」「退職して再就職せず」まで6パターンを想定した。 その結果、正社員で就労を継続した場合は、出産退職して再就職しない場合と比べて、世帯にとって1億6700万円も生涯の可処分所得が多くなることが分かったのだ。 この試算が今、世帯の手取りを増やすため「年収の壁」が与野党で議論されるなか、改めて注目されている。 この試算の特徴は、夫は88歳、妻は93歳と平均的寿命まで生きると仮定したうえで、2人分の賃金だけでなく退職金、公的年金、児童手当、企業の配偶者手当なども「収入」に加え、税(所得税、住民税)や社会保険料(厚生年金保険、医療保険、介護保険、雇用保険)の負担も詳細に計算したことだ。 その結果、出産後も育休を経て正社員で働き続ける場合では、世帯の手取り総額は4億9200万円と高くなるのに対し、出産で退職して再び働く場合では、「正社員で再就職」なら4億4100万円と4億円を超える一方、「パートで再就職」だと3億円台半ばになることが示された。 「パートで再就職」のなかでも、(1)「年収の壁」内で年収100万円の働き方なら3億5200万円で、(2)「年収の壁」超の年収150万円だと3億6400万円になり、生涯で1200万円の違いがあることが示された。