櫻坂46、三期生楽曲「静寂の暴力」が高く評価される理由 池田一真監督の映像表現から分析
櫻坂46の三期生楽曲「静寂の暴力」のMVのYouTubeにおける再生回数が500万回を突破した。同曲は6thシングル『Start over!』(2023年)に収録された、「夏の近道」に続く2曲目となる三期生楽曲。誰もが抱える“孤独”というシリアスなテーマを当時加入からわずか半年の三期生たちが表現したMVは現在も高い評価を受けている。 【写真】櫻坂46メンバーが中森明菜や松田聖子ら“80年代アイドル”に大変身 「静寂の暴力」でセンターを務めたのが山下瞳月。歌詞では静寂が引き起こす孤独に抗いながら、自分の存在価値を見出そうとする決意を歌い、〈私から何を奪うつもり?/思考を停止させる/静寂は暴力だ〉と結論づける。「夏の近道」では三期生のフレッシュな一面にフォーカスした明るくポップな曲調で、MVも梅雨の季節の学校を舞台にブレザーやセーラー服を着てダンスをする、まさに青春を切り取った映像だったが、「静寂の暴力」で描かれたのは普遍的な孤独。誰しもが抱え、身近に存在するテーマであるがゆえに安易に捉えがちだが、孤独の感じ方、孤独との向き合い方は人それぞれであり、解釈が非常に難しい。メンバーも同曲を歌う上で解釈に苦心したことがインタビューやドキュメンタリーでも明かされているが、三期生が真正面から孤独と向き合ったのが「静寂の暴力」という楽曲だ。 こうしたテーマを扱う上で欠かせないのがMVである。MVの監督は『MTV VMAJ 2021』最優秀邦楽新人アーティストビデオ賞を受賞し、櫻坂46の「流れ弾」を筆頭に、乃木坂46の「制服のマネキン」や欅坂46の「サイレントマジョリティー」などのMVを手掛けてきた池田一真。ドキュメンタリーチックかつワンシチュエーションで描く手法は池田監督の専売特許だ。 池田監督は雑誌『SWITCH』2024年7月号(スイッチ・パブリッシング)において、「MVは楽曲やメンバーを魅力的に見せる舞台であって、その世界の中で型にはめるのではなく、メンバーが考えて咀嚼しながらある程度自由に表現してもらった方が作品自体のクオリティが上がると思っています」と、MV制作におけるスタンスを明かしていた。 たとえば、欅坂46の「サイレントマジョリティー」では渋谷の再開発工事現場で躍動感たっぷりに踊るメンバーのダンスパートとサイドストーリーで構成されているが、やはり比重はダンスパートに重きが置かれている。デビューシングルでしか見られない初々しい表情を臨場感のある映像で映し出しており、その時にしか出せない刹那的瞬間を切り取っていた。 また、櫻坂46の「流れ弾」では、大量の花びらが舞い散る中でも激しく踊り狂うメンバーたちの姿を黒と赤を基調とした鮮やかな色味で演出している。自身が手掛けた欅坂46の「サイレントマジョリティー」や「エキセントリック」、「月曜日の朝、スカートを切られた」のどれとも異なる映像表現だが、欅坂46から受け継がれてきた櫻坂46らしいダンスと、過去にとらわれずに新しい価値を創出する櫻坂46の決意の両方が映像の中に込められており、衝撃的な一作となった。