老朽化で解体も……全国に存在する巨大観音像 建立の理由と管理の難しさ
前回2004年の改修と比べて約3倍の費用というが、どう捻出したのか。 「多くを負担したのは、東京湾観音を建立した宇佐美家です」(藤平支配人) 東京湾観音は1961年、東京・深川で材木問屋を営む事業家・宇佐美政衛氏(故人)によって建てられた。宇佐美氏は1945年に東京大空襲を体験。当時は町内会長という立場だった。戦後、造林業で成功したのち、戦没者慰霊と世界平和を祈念するため、観音像を建立したという。大卒の初任給が1万円前後の時代に投じた建立費は1億2000万円だった。 そして、建立から60年近く経った今回の補修工事でも費用の多くを負担した。老朽化で周囲に迷惑をかけてはならないので、細かく工事をしたと藤平支配人は話す。 「大手の施工会社にお願いし、観音さまを覆うように足場を組みました。組むのに2カ月、解体に1カ月かかり、費用の3分の1は足場代でした」
宇佐美家の費用負担により、拝観料を50年近く値上げしなくても東京湾観音を安全に維持してこられた。宗教法人東京湾観音教会の教会長で創立者の三男、宇佐美芳衛氏は言う。 「観音さまは、父が戦没者慰霊への強い思いから建立を計画し、大勢の人たちの協力があって実現しました。いまも多くの参拝者がいらして、地元の方たちにも親しまれている。しっかり維持していくのが私たちの務めだと思っています」
つくるなら1000年単位の像を
ジャーナリストで浄土宗の住職でもある鵜飼秀徳氏は、そもそも宗教法人の施設の維持にはお金をかけていくしかないと言う。 「私の京都の寺でも30年ごとにメンテナンスをします。木造であっても相当なお金がかかる。鉄筋コンクリートの巨大な立像であれば、その維持が巨額になるのは当然でしょう」 観音像の巨大化は、日本の経済発展と事業者のPRの側面もあると説明する。 「奈良の大仏が建てられた昔から、巨大な仏像は権力や財力の象徴でした。とくに80年代、90年代は日本の経済発展に従って日本一を競うように高くなり、ついには100メートル級の巨大観音が登場した。多くは建設関係者や不動産関係者が建てたもので、その巨大さは事業のPRにもなりました」