<ぶつからない自動車>障害物を検知するブレーキシステム
インカー・カメラの映像に写るドライバーはちょっと緊張気味。映像が切り替わり、障害物が見る見る迫って来る。「あー! ぶつかる!」とドライバーが叫んだとたん、衝突軽減ブレーキが作動してクルマは障害物の手前で停止。 多くの自動車メーカーは現在この手の衝突軽減ブレーキのCMに力を入れている。クルマの売れ行きを大きく左右する重要な差別化ポイントになっているからだ。 世界的に見てもすでにEUでは衝突軽減ブレーキ装着の義務化か決まっており、米国でも義務化を検討中だ。衝突軽減ブレーキは、近い将来全ての車両に搭載されるようになるだろう。その時に向けて各自動車メーカーはいままさに激しい競争の渦中にある。 今回は衝突軽減ブレーキをいち早く実現したボルボに取材を行い、ぶつからないブレーキの現在を分析してみた。
システムに過信するとかえって危険?
衝突軽減ブレーキの話で必ず出てくる疑念がある。「クルマが自動停止したら、ドライバーが安全に無頓着になってかえって事故を呼ぶ」というものだ。果たして衝突軽減ブレーキは役に立つ装備なのか、それとも別種の危険を産み出すハイリスクな装備なのか? もちろんその名前が「衝突軽減」と言っているように、クルマが常に完全に安全を担保してくれるわけではない。主体的に運転するのはあくまでもドライバーであり、システムはそれを支援するだけだ。 しかし、事故の実体を子細に見てみると少し見方が違ってくる。ボルボの統計調査によれば、追突事故の原因は93%が前方不注意によるもので、しかも事故を起こしたドライバーの47%が事故回避行動をとっていない。また衝突事故の75%は時速30km以下で発生している。そして最新の衝突軽減ブレーキの多くは30キロ程度までなら衝突を回避して止まることができる。もちろん路面の状態や勾配、搭乗人数や積載量などの条件に依存するから絶対とは言えないことは念を押しておく。 つまり、衝突軽減ブレーキがあればこれらの事故は激減する可能性が高いのだ。米国高速道路安全保険協会の報告では、このような低速域をカバーする衝突軽減ブレーキがあれば、事故は最大で22%減少するといい、衝突軽減ブレーキ搭載車について調べると搭乗者傷害保険の請求が51%、車両の修理費は20%減少したという。 人間はどうしてもエラーを起こす。そうしたフェイルセーフの考えに則れば、衝突軽減ブレーキは有るべき装備だ。技術によって成し遂げられる安全があるなら、それは評価すべきだろう。しかし、同時にドライバーが機械に依存しないように慎重に仕立てられるべきでもあるのも事実だ。