<ぶつからない自動車>障害物を検知するブレーキシステム
衝突安全ブレーキはタイムマシーン
図1はボルボが作成した衝突安全のイメージ図だ。右端に衝突という結果があり、左に向かうほど時間軸が巻き戻る。事故という結果に直面した時「あの時ちゃんと前を見ていれば……」あるいは「あの時とっさにブレーキを踏めていれば……」という後悔から逃れられないだろう。「人生にはたらればは無い」とはよく言われる言葉だが、衝突軽減ブレーキはそのたらればを可能にするシステムだと言える。それは以下の様に構築されている。 4.の段階ではクルマがフルブレーキングを行って衝突エネルギーを少しでも緩和し、被害を軽減する。 3.の段階では、ぶつからないようにブレーキをかける。同時に音と光による警報を発して、ステアリングなど他の方法による回避も促す。 2.の段階では危険が近付いたことをドライバーに知らせて、ドライバーによる危険の回避を促すとともに、状況によってブレーキやステアリングを操作して「危険状態からの回復」を目指す。 1.の段階ではドライバーが運転に集中できるようにストレスを軽減のための各種サポートをする。 4より3、3より2、2より1と常に現在より危険が少ない状態に戻すことに主眼が置かれ、最終的にはドライバーが主体的に運転に集中できる状態を理想とする考え方だ。当然クルマの機能に依存して運転を放棄することは望まれていない。「ドライバーが安全に無頓着になる」ことを極力回避する考え方なのだ。もちろんこれはボルボ一社の考え方に過ぎないので、全ての衝突軽減システムがこの考え方に根差しているわけではないが、少なくとも「衝突軽減ブレーキが危険を呼ぶ」という見方は、統計データが示した「避けられる事故リスク」から目を逸らした主張であることは理解できると思う。
メーカーや車種によって全然違うシステム構成
さて、現在各自動車メーカーがシステムを競い合っているということは、まだ「どれを買っても同じ」という状況ではないということだ。衝突軽減ブレーキのシステムはメーカーや車種によって様々だ。 表1は、障害物を検知するシステムのタイプ別分類だ。基本的な方式は3つある。ひとつ目はミリ波レーダーによる検知システムで、他システムに対して遠距離での検知に優れている。各社で多少の差はあるが100~200メートル遠方の障害物を検知することができる。高速域で衝突軽減ブレーキを作動させようとすれば、このシステムが不可欠だ。欠点はコスト高。安価なクルマに装備するのはなかなか難しい。 次がカメラ式。最新のカメラ式はその多くで画像解析と組み合わされ、障害物の種類を判別できる。四輪車か二輪車か、あるいは歩行者か。当然、対象によって回避の方法は異なる。例えば進路変更か機敏な二輪にはより早期の減速による回避が必要だ。これを可能にするのがカメラ式だ。またカメラ式は比較的低コストでシステム構築が可能だ。スバルはこのカメラ式のEyeSight(アイサイト)でシステム価格を大幅に抑え、この種のシステムの普及に大きな影響を与えた。弱点は夜間や強い逆光での認識だが、赤外線照射(暗視カメラ方式)などの様々な工夫により、弱点を補完しつつある。 三つ目は赤外線レーザー方式。このタイプの最大のメリットは夜間でも検知が可能なことだ。一方で検知距離が短く、光を反射しにくい対象は検知が難しいので、平面の多いクルマなどは得意だが、平面の少ない人の検知はあまり得意ではない。非常にコンパクトで安価なのが特徴で、軽自動車などのコスト制約のあるクルマでも衝突軽減ブレーキが採用できるのはこのタイプの恩恵だ。より多くのクルマに採用されることで、社会全体のリスク低減に貢献可能なシステムと言える。 現在の衝突軽減ブレーキはコストや求められる性能に応じて、これらの方式を選択、あるいは組み合わせて構築されている。例えば、ボルボの場合は3つの方式を全て装備して、状況に応じて使い分けている。具体的には、ミリ波レーダーが前方150メートルまでの長距離と、左右60度(60メートル)の広角中距離を秒間2万回走査し、障害物を最大15個まで検知する。検知された障害物はカメラの映像と比較解析され、種別を特定して、対象種別に応じた警告や回避操作が行われている。