企業価値担保権で創造される「企業と金融機関の共通価値」~金融庁 和田良隆・信用制度企画室長インタビュー ~
―認定事業性融資推進支援機関について。例えば中小企業庁の経営革新認定支援機関がある。統合されるのか
異なる法律による別制度なので統合されない。まずは、現場での具体的な支援のニーズや、それを満たすための支援能力について検討する必要があると考えているが、新たな団体を創設するのではなく、既存の団体が認定を受けることを想定している。
―なぜ、「施行まで2年半以内」となったのか
登記システムの改修などに万全を期す。また、認定事業性融資推進支援機関の候補との話し合いや実務への落とし込みなどの準備期間も必要だ。実務への落とし込みとしては、例えば今回の制度では、信託契約により担保が設定されるため、その契約書のひな形、窮境時の判断基準の目線合わせ、特にEBITDA(※5)などを活用した事業キャッシュフローの目線の水準感、コベナンツの内容など、検討を重ねる必要がある項目も多い。 ※5 減価償却前営業利益に相当
―零細企業にコベナンツは馴染まない
企業価値担保権を活用する融資先の想定について地域金融機関と意見交換をしているが、第一感としては、スタートアップではレイターステージ(※6)、事業承継や事業再生では年商数億円が下限になるとの印象を持っている担当者が多い。現在の融資に比べ、モニタリングのコストが掛かることや経営改善支援も手厚くなることを想定しての実感だろう。ただ、海外の典型的なベンチャーデットは、アーリーステージのスタートアップ向けであること等も踏まえると 、日本での実務面の蓄積が進むことで、企業価値担保権の活用の間口が広がることも期待される。 ※6 スタートアップの成長ステージの1つ。「シード」「アーリー」「ミドル」「レイター」に区分けすることが一般的で、レイターは事業が自走している状態を指すことが多い
―企業価値担保権を利用した融資の実行件数を「金融仲介機能のベンチマーク」に入れることは
想定していない。
―企業価値担保権の実務面について。借り手の権限として「担保目的財産の処分は基本的に自由」とされている
担保目的財産は総財産、つまり将来キャッシュフローを含む事業の価値で、それに担保が設定されるが、仕入をしたり、買掛金を支払ったりといった商取引等の通常の事業活動には、担保権者の同意は不要という意味だ。事業譲渡など企業価値を大きく変え、担保価値の毀損につながり得る通常の事業活動の範囲外の行為は、担保権者の同意が必要となる。例えば、工場での製造が主要な事業である場合、工場を売却することが該当し得る。