企業価値担保権で創造される「企業と金融機関の共通価値」~金融庁 和田良隆・信用制度企画室長インタビュー ~
―企業価値担保権の想定活用ケースは
スタートアップ、事業承継、事業再生などが想定される。実務として定着している有形資産を担保とした融資では、有形資産を持たないことが多いスタートアップは融資を受けにくい。企業価値担保権では、ノウハウや顧客基盤などの無形資産も担保価値として評価されるため、この状況の改善が期待される。 事業承継では、例えば、創業社長の場合は事業が大きくなるにつれて自身の資産も拡大するため、経営者保証への抵抗が少なかったかもしれない。ただ、承継時期に差し掛かり、従業員へバトンを渡すとなった場合、新社長(候補)が経営者保証へ抵抗感を示すことは少なくなく、承継の妨げになっている面もある。企業価値担保権の場合、新しい経営体制やビジネスプランも含めた事業全体の価値を評価する。担保価値があると評価された場合、金融機関は経営者保証を求めずに融資を実行することができ、円滑な事業承継が実現され得る。 事業再生では、例えば、不採算部門を整理する際に担保の目的となっている不動産の処分が必要となり、有形資産が大幅に減少することがある。ただ、残す事業に価値がある場合は今回の制度が活用できる。 また、担保価値が事業価値と連動することで、貸し手と借り手の双方が将来を見据えて事業に注力することに繋がるので、事業の着実な成長、窮境局面に陥る前段階での事業悪化の回避が図られ、融資の堅実な弁済に繋がることも期待される。 いずれの場合も重要なのは、金融機関の「目利き力」だ。
―事業再生の想定ケースについて。プレを含むDIPファイナンスの実行時には、「全資産担保」のような実務もある
(準則型)私的整理の際に企業価値担保権を活用することが、プロトタイプの1つになるかもしれない。法律の附則に、施行期日は公布日から2年半以内と記載されているが、この間に勉強を重ねて、ユースケースを掘り当てていくことが大切になるだろう。
―包括的担保法制、事業成長担保権など様々な仮称で呼ばれていたが、最終的に企業価値担保権となった
2019年3月から「動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会」が開催され、2021年4月に報告書が取りまとめられている。以降も検討を重ねたが、金融審議会(※4)でも企業価値担保権の創設を主に議論した。その後、「事業性に着目した融資の推進に関する業務の基本方針」が昨年12月に閣議決定され、新しい担保権の創設のみならず、事業性融資の推進を図るために大きく3つの施策が加わり、事業性融資推進法というパッケージとして法案を提出することとされた。具体的に1つ目は、事業性融資の推進に関する基本理念・国の責務の明記。2つ目は、金融庁への金融担当大臣を本部長とする事業性融資推進本部の設置。 3つ目は、認定事業性融資推進支援機関制度の導入。金融機関側においては、事業者の経営実態を把握する方法や融資実行後の期中管理の方法等、事業者側においては、自らの企業価値に関する情報提供の方法などについて、貸し手と借り手の双方が不安に思うことも生じるだろう。このような場合に備え、金融機関や中小企業者に対して、経営実態の把握方法や事業計画の策定・変更、定期的なフォローアップなどについて、助言・指導を行う支援機関の認定制度を導入する。 ※4 事業性に着目した融資実務を支える制度の在り方等に関するワーキング・グループ(2022年11月~2023年2月)