松井久子「76歳と89歳の再婚から2年。結婚を応援してくれた義娘夫婦とは別居に。残りの人生を二人だけで生きていく道を選んで」
◆この年齢での結婚は家族を作るためではない 実は、私たちの結婚を後押ししてくれた先生の娘夫婦が、少し前に家を出ていきました。結婚前から先生は長年、娘夫婦と同居していましたが、生活は完全に別々でした。夕食も先生はスーパーで自分で1人分のお惣菜を買って、ご飯を炊いて食べていたのです。 彼女は「父親を年寄り扱いするのは失礼」と思っていたようですが、両者の気持ちに齟齬も多少あったように感じます。 そこに突如、私がやってきて、夕飯は私が作り2家族で食卓を囲む生活になりました。その変化を先生はもちろん、彼女も最初は喜んでくれていたと思います。 ところが同居して5ヵ月ほどたったお正月、おせちを囲んだ数日後に娘さんの夫から突然、家族のグループLINEに「話し合いたいことがあります」とメッセージが届いたのです。 話し合いの席で彼に「彼女は久子さんが怖い、顔を見ると過呼吸になると言うんですよ。僕たちが出ていくことも考えています」と告げられ、娘さんからは、「ずっと我慢していたけれど、もう耐えられない」と……。 私は長く一人暮らしだったので、家族4人の夕食を作れることが嬉しくて、張り切って料理をしていたのですが、娘さんには複雑な気持ちがあったのでしょう。一人娘で、父親のことが大好きだった人ですから。そこからは私抜きで先生と娘夫婦が話し合いを繰り返し、最終的には同居を解消することになりました。
先生は自分の気持ちより家族が喜ぶことをしたい人でした。その彼が、娘に「久子と暮らすことは譲れない」と宣言した。それは先生にとって、これまでの自身の生き方をひっくり返すほどの覚悟を伴うものだったと感じています。 そんな先生のことが心配で、朝目覚めると、ベッドの中で私は何度も「大丈夫?」と問いかけてしまいます。そのたびに先生は、「久子がいるから大丈夫」。そして、「あなたはあなたのままでいい」と言ってくれます。 何かの役割ではなく、自分のままでいていいという安心感。私が長い間、プライベートでも仕事でも、求め続けて得られなかったものはこれだと、いまはわかります。人生で初めて、あるがままの自分でいることが許される喜び。この感覚が、二人で暮らすなかでの最大の恩恵だと言えるでしょう。 家族のことについては、時間がかかっても、皆が幸せになれるといいと思っています。けれど、悩んでも考えてもどうすることもできないことが人生にはあると知りました。 結婚して2年が経ついま、私たちの年齢での結婚は、新たな家族を作るためのものではないと実感しています。子どもや孫たちに囲まれ、幸せなおじいちゃん、おばあちゃんとして生きていくこととは、両立しない。残りの人生を二人だけで生きていく道を選ぶこと、ではないかと思うのです。 私は、この先の人生を、先生と二人で歩いていきたい。闘病や介護の日々が訪れても、寄り添い抜くと決めています。 (構成=菊池亜希子、撮影=宮崎貢司)
松井久子