不動産の「相続登記」と「名義変更」の違いは?…相続で名義変更を怠った場合の主な“3つのリスク”【弁護士が解説】
不動産の名義変更にかかる費用と税金
不動産の名義変更を行う際には、費用と税金の2つの主な支出が発生します。 費用としては、名義変更に必要な書類、戸籍謄本や住民票、固定資産評価証明書など、相続に関係する書類の取得費用が必要です。これらの書類の取得費用は、手続きする役所や証明書の数によって異なりますが、比較的単純な相続であれば、全体で1万円以内に収まることが多いです。 また、相続登記の際には、登録免許税を納める必要があります。これは、不動産の固定資産税評価額に基づいて計算され、相続する不動産の評価額に対して0.4%の税率が適用されます。 例えば、固定資産税評価額が1,000万円の場合、4万円の登録免許税がかかります。評価額は、不動産が所在する市区町村役場や都税事務所で発行される「評価証明書」に記載されています。
名義変更をしなかった場合のリスク
1.次の相続時に発生する複雑な手続き 名義変更を長期間放置すると、次の相続の際に相続人が増えて権利関係が非常に複雑になることがあります。 例えば、父親が亡くなり子が相続人になった場合、相続登記を行わないまま子が亡くなってしまうと、次にその孫が相続人となります。そして、その孫がさらに亡くなれば、その子、つまりひ孫が相続人となり、相続人が世代をまたいで増えていきます。 このように相続人が増えると、全員の同意を得て名義変更を行うことが必要になりますが、相続人の中には協力しない人や、病気で話し合いができない人、さらには行方不明者が出てくる可能性もあります。こうした状況では、名義変更が非常に困難になり、手続きを進めるためには調停や裁判が必要になるケースもあります。 2.法定相続分が差し押さえられるリスク 遺産分割協議や遺言で特定の人が不動産を相続することが決まっていたとしても、相続登記を行わない限り、その事実は第三者に対して有効に主張することができません。もし他の相続人の一人に借金があった場合、その債権者は相続登記が行われていない不動産に対して、その相続人の法定相続分を差し押さえることが可能です。 しかし、相続登記を済ませていれば、他の相続人の債権者は不動産の差し押さえをすることができなくなります。相続登記を行うことによって、第三者に対して自分の権利を法的に守る「対抗要件」が得られるため、法定相続分が差し押さえられるリスクを回避できるのです。 未登記のままでは、この対抗力がないため、第三者に対して自分の権利を主張できず、先に登記を行った者が優先されてしまいます。 3.共有持分が売却される可能性 相続において、相続人の一人は他の相続人の協力がなくても、自分の法定相続分に基づいて相続登記を申請することができます。また、相続人の債権者も、その相続人に代わって法定相続分の範囲内で登記を申請することが可能です。 例えば、長男と次男が相続人の場合、長男または次男は、相手の同意を得ることなく、それぞれ自分の法定相続分(2分の1)の持分で相続登記を完了することができます。このような状況で、次男が経済的な理由から自分の共有持分を第三者に売却したり、担保に入れたりすることも可能です。 このように、共有持分が第三者に渡ってしまうと、不動産の所有権が他者に及び、後に名義変更を行う際に複雑な手続きが必要になる可能性が高まります。また、売却された共有持分を取り戻すためには、追加の費用や時間がかかることになります。