シリアは今後も虐殺が続く カギ握る米国「ボルトンvs.マティス」
内戦が7年以上続くシリアでは、いまも多くの市民が犠牲になっています。そのシリアに対し、現地時間4月14日、アメリカ、イギリス、フランスの3か国が攻撃を行いました。アサド政権が化学兵器を使用して多数の市民を殺害したからだとしています。しかし、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏は、今後もアサド政権による虐殺は続くと指摘します。その構図を変えられる可能性があるのが、4月に新しく就任したボルトン米大統領補佐官だといいます。黒井氏に寄稿してもらいました。 【写真】ロシア参戦で難民はさらに増える シリアは「地獄」化の恐れ
国際法的には“アウト”でも攻撃に踏み切った理由
米英仏によるシリア攻撃は、首都ダマスカス近郊の東グータ地区の東部に位置する中心都市ドゥーマで、アサド政権が化学兵器を投下し、50人近い死者と500人規模の被害者が出たとして、そのことに対しての懲罰的攻撃でした。 この攻撃自体は「化学兵器使用は許さない」という意思を3か国が示したかたちです。攻撃自体は国連安保理決議を経ていないので、国際法的に“アウト”の可能性が高いのですが、その後、この攻撃を非難する決議案がロシアによって提案され、安保理に大差で否決されたことにより、この攻撃は国際社会に正式に容認されました。 なぜこのような矛盾したことになるかというと、国連安保理が機能していないからです。 もともと化学兵器を使用したこと自体が、アサド政権の国際法違反となります。ところが、アサド政権の軍事行動を抑える決議案を、拒否権を持つ常任理事国のロシアがことごとく潰してきました。常任理事国が拒否権を行使するのは合法ですから、それを止めることはできません。 つまり、特権的な安保理常任理事国に事実上の国際法違反行為の擁護を認めてしまっている現行の国際法の下では、化学兵器使用を禁じるという国際的に普遍的な安全保障を守ることができないわけです。そのため米英仏は、国際法上はアウトの可能性が高いにもかかわらず、安保理決議を経ずに軍事行動せざるを得ませんでした。 こうした経緯から、アサド政権が国際法違反を犯し、それを国際法で裁けないために有志国が国際法違反するかもしれないかたちで懲罰し、それを事後に安保理が容認したという、非常にややこしい話になっています。 もっといえば、アサド政権とロシア軍は「民間人を攻撃してはならない」という国際人道法に違反していますが、その肝心の「戦争犯罪者」であるロシアが安保理拒否権を持つため、国際法で事態を収めること自体が不可能になっています。