ノア移籍5年目で待望のベルト奪取 バキバキボディ・征矢学の「情熱一直線」
【柴田惣一のプロレス現在過去未来】
“情熱一直線” 征矢学のバキバキボディから発せられる熱量が凄まじいことになっている。 【動画】「チクショーーー!これだけ腹立つことはねぇぞ」掟破りの必殺技合戦!ナショナル王座前哨戦、王者の情熱が大炎上! ノアに乗り込んでから5年目。好勝負を連発し、ファンの期待値も会場人気も高かったが、いまひとつ成果を上げられず悔しい思いをしてきた。だが腐らず諦めず精進を続け、やっと、まさにやっと待望のベルトGHCナショナル第13代王座を獲得。ドクトル・ワグナーJrの挑戦を受けて立つ初防衛戦(10・14東京・後楽園ホール)を前に、その全身からは湯気が立ち熱気が充満している。 「情熱を…」が決め台詞。元より熱い男だったが、39歳にして熱血人生の頂点を迎えている。 2007年、無我ワールドでデビューした征矢。無我時代に持って生まれた野性に磨きがかかった。 自然豊かな千葉・房総の無我道場は、SPWFの使用していない道場を西村修が谷津嘉章から借り受けたもの。古い建物は傾き、壁は隙間だらけで周囲の自然に溶け込んでいた。湿気も多く、隙間からは地域ネコが顔をのぞかせ、スキマ風が吹き抜ける屋内にはネズミが自由に走り回っていた。ネコとネズミが追いかけっこ。伝説のアニメ「トムとジェリー」の実写版の世界だった。 周囲に民家はちらほら。ポツンと一軒家のような環境で、夜になると物音一つせず「キーンという音が聞こえてきた」という静けさだった。 征矢はたった一人で、無我道場を守っていた。生来、自然児ではあったが、無我道場での野性ライフで野人ぶりに拍車がかかったことは間違いない。これがWILDの原点であり、そして情熱へと続く。 全日本プロレスに移り、真田聖也(現SANADA)らと出世争いを展開。大森隆男とGET WILDを結成し、世界タッグ王座を奪取し、最強タッグで優勝するなど大暴れ。試合後や記者会見で、とぼけた発言を連発。大森を「ダンナ」と称し、大森からは「アニキ」と呼ばれ、息が合っていないようで合っている何とも言えない絶妙な掛け合いで人気を呼んだ。2012年にはプロレス大賞「最優秀タッグチーム賞」に輝いている。 WRESTLEー1を経て2020年からノアに登場したが、なかなか結果が出ない。今年3月には、肘部管症候群の手術のため欠場。復帰までの4か月の間、いろいろと考えることがあったようだ。 昨年結婚と長男誕生を公表。そのイクメンぶりやプライベートライフをYouTubeチャンネル「そやそやテレビくん」で公開しており、愛すべき家族のためにも踏ん張りどころだった。 征矢の魅力といえば、熱い魂であり情熱。GET WILDの封印以降、感情をむき出しにし、爆発させる機会を掴みきれないでいた。金剛では寡黙な男だったが「いつ、やるの? 今でしょ」とばかり、GHCナショナル王座戴冠(9月14日)を機に「情熱一直線」ぶりを前面に押し出した。 V1戦の相手ワグナーJrは第9代王者。メキシコのルチャ一家の一員で、家族のサポートもばっちり。実は征矢は父親との折り合いが悪く、レスラーになる時も「おまえにできる訳がない」と反対されている。今でこそ応援してくれるが、まだまだわだかまりを抱えたままだ。 また、実弟の征矢匠は11年1月に、兄の学を相手に全日本のマットでデビュー。物おじせず立ち向かう負けん気の強さで将来を期待されたが、3月の兄弟対決で学のラリアットでアゴを骨折。5か月後に復帰はしたもののアゴは完治せず不調が続いた。ついにはドクターストップがかかり12年5月に引退している。引退試合は最初で最後の兄弟タッグだった。 試合中の怪我とはいえ、心優しい学は弟の引退にずいぶんと心を痛めていた。12年経った今でも弟への想いは胸に秘めている。 ルチャ一家のバックボーンを持つワグナーJrを退けることで、父へのモヤモヤしたわだかまりを払拭できるかも知れない。そして、志半ばでリングを去った弟の分まで自分が頑張らなければと、ますます情熱が高まっている。 負けられない想いがいよいよ募る。情熱一直線がまだまだ真っすぐに伸びるのか、それともポキンとへし折られてしまうのか。征矢が登場すれば四角いマットが情熱大陸になる。10・14決戦の「情熱大爆発」を見逃す手はない。 <写真提供:プロレスリング・ノア>
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