抹茶スイーツの原点は、茶だんご? 京都・宇治で誕生した「日本独特の茶文化」
香り高い抹茶を食する楽しみを提供して
茶の本場であるだけに、茶とセットである和菓子の老舗も宇治には少なくない。それらの店でも茶だんごを取り扱うが、その製造が始まったのは、さほど昔からのことではなく、大正時代に宇治の和菓子店の一つが売り出したのが最初という。抹茶を取り入れた菓子が、いかにも宇治の地にふさわしいことから、以来、製造販売する店舗が増え、宇治を代表する土産として定着した。 今回、訪問した宇治川餅本店は、もとは宇治で旅館を営んでいたが、53年前から地元土産店などに卸す茶だんごの製造をはじめ、現在は製造所に直販店も置く。代表の安井克典(よしのり)さんに話をうかがった。 「茶だんごは、茶ようかん、茶あめと並ぶ、宇治を代表する銘菓です。地域には茶だんごのメーカーがたくさんありますが、うちでは、だんごを通して宇治茶を食べていただくという思いで作ってきました」と安井さん。石臼挽きの抹茶を使い、着色料や添加物を用いないその茶だんごは、見た目も素朴な昔ながらの姿である。 茶だんごの製造方法は、まず米粉を湯水と混ぜ合わせ、その固まりを半蒸の状態まで蒸し上げる。それに抹茶と砂糖を合わせたペーストを練り込み、小さく丸めて成形、串を刺すなどし、最後にもう一度、本蒸をして仕上げる。季節によって、湯水の温度に気を使うという。 「抹茶は加熱しすぎると黒ずんでしまうので、扱うのが難しい食材です。また、年ごとに品質の違いがあり、配合などを試行錯誤することもあります」 宇治川餅本店では、風味を重視して、抹茶の量を多めにしているとのこと。やや色味が濃いのは、その証しという。香り高いだんごを目当てに直販店を訪れる、地元のファンも多い。 「観光シーズンの影響を受け、需要の変動が大きい商品ですが、近年は宇治の観光も様変わりしてきました。昔は、京都から奈良に向かう修学旅行生のバスが立ち寄り、平等院を見てお土産を買っていくという感じでしたが、町を散策される方の姿を多く見るようになり、海外からの観光客も増えました。あわせて飲食店なども増え、夜遅くまで営業しているところもあります」 宇治が、本年のNHK大河ドラマのヒロイン・紫式部の著作『源氏物語』の舞台であり、「源氏物語ミュージアム」が所在するということからの来訪増も感じていると安井さん、これからさらに期待とほほえむ。 毎年10月第1日曜日(令和6年は10月6日)、宇治では「宇治茶まつり」が開催される。栄西禅師、明恵上人、千利休の3人の茶祖の遺徳をしのぶ祭事で、宇治橋で汲み上げられた水を古装束の一行が運び、宇治の禅寺・興聖寺にて「茶壺口切りの儀」などを執り行なったのち、茶祖に茶が献じられる。 祭事会場では茶席が設けられ、名産品の販売もあってにぎわう。宇治の茶文化の一端に触れての帰り、お土産には、やはり茶だんごをお勧めしたい。
兼田由紀夫(フリー編集者)