「古くて新しいつげ櫛の魅力を、広く伝えていきたい。」『よのや舗』女将・齋藤有都さんの着物の時間。
そうやって齋藤さんが生み出した商品の中から、今日はバレッタと帯留めを身につけている。色漆を薄く塗り重ねる〝拭き漆〟の技法で仕上げたもので、つげの木目が淡く透けて見え、軽やかな印象だ。確かにジーンズやワンピースにもよく添うだろう。 「もちろん着物に合わせても、さりげなく個性的な印象を加えられると思います」 そんな今日の着物は、紗の小紋。齋藤さん夫婦を幼い頃からよく知り、結婚式では仲人に立っていただいた浅草のある夫妻の奥さまから譲られたのだという。 「私の渋好みをいつの間にか見抜いて、お手持ちの中から数枚選んでくださったうちの一枚です。グレーがかった藤色に細かな白の波模様が織り出され、しゃれていますよね。ここぞという大切な機会に着ています」。合わせたのは、紙布(しふ)帯。緯糸(よこいと)に和紙を用いているため、見た目も締め心地も軽やかだ。「赤の拭き漆の帯留めを入れて、華やかさを加えてみました。扇子は『荒井文扇堂』さん、草履は『辻屋本店』さんの品。ともに100年以上続く浅草の老舗です」 こうして着物を深く愛する齋藤さんだが、店ではあえて洋服を選んでいる。 「着物だとどうしても敷居が高いと思われるお客さまもいらっしゃるので。髪と頭皮の健康を保つつげ櫛の素晴らしさを、もっともっと多くの方に知っていただきたい。そのためにあらゆる工夫を重ねていきたいですね」
齋藤有都 さん さいとう・ゆづ 浅草生まれ、浅草育ち。音大卒業後、陸上自衛隊音楽隊トランペット奏者、トランペット講師などを経て、享保2年創業の本つげ櫛専門店『よのや櫛舗』の齋藤悠さんと結婚。女将として店を切り盛りする。2児の母。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・高松由佳 着付け・斉藤房江(きもの 円居) 文・西端真矢 撮影協力・天麩羅 中清
『クロワッサン』1123号より
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