きのこ採りで戦慄、「熊の巣穴」を見に行った男たちの末路~戦前の「人間と熊」の命がけの闘い~
おそらく、ノンコは熊の吼える声を聞いて走ってきて、その辺りの臭いが一番強いと感じ、穴の縁に立って熊の居場所を突き止めようとしているのだろう。そして熊は、大嫌いな犬が来て穴の前に立ちふさがってしまったため、私を追って飛び出すこともできず、穴の奥深くに身を潜ませたものと見える。 ノンコが穴の中に目をつけて熊に戦いを挑むようなことになると、始末が悪い。私はただちにノンコを呼んだ。熊の吼えた声を耳にして気が立っていたのであろう、ノンコは一目散に走ってきた。
再び集まった3人は、互いの無事を確かめ合うと、一緒になって急斜面を辷り降り、支流の沢を下って約4キロの道程を走り通し、ようやく私の家に辿りついた。 後で判ったことだが、熊に吼えられて私が穴の縁から逃がれようとしたとき、ぐっと体が止まり、“後ろから熊に摑まれた”と思ったのは、穴へ近寄ろうとして這って潜り抜けたあのゾミの木に、下腹が引っかかって前へ進めなくなったためであった。だが、あのときは本当に熊に摑まれたように感じられ、背中から首筋のあたりがぞくっとしたのであった。
今野 保