殿堂入りの名将ボビー・コックスも...メジャーでは少なくない「GM→監督途中就任」の成功例。西武・渡辺監督代行は成功するか<SLUGGER>
交流戦開幕を前にした5月26日、西武の松井稼頭央監督の休養が発表された。この時点で15勝30敗でパ・リーグ最下位。ファンの不満も日増しに高まっていた状況とあっては、やむを得ない決断だったかもしれない。そして、監督代行として指揮を執ることになったのは、松井を監督に任命した渡辺久信GMであった。2008~13年にはライオンズの監督を務めており、11年ぶりの現場復帰。日本球界では21~22年の石井一久(楽天)以来のGM兼監督である。 【動画】“ミスター・レオ”栗山巧、プロ野球史上15人目の通算400二塁打を達成! GM制度が整備されていない日本球界では、シーズン中にGMが監督にスライドする例はほとんどない。似たケースとしては1984年の日本ハムが挙げられる。最下位に低迷していた6月に植村義信監督が解任され、フロントでGMに相当する仕事をしていた球団常務の大沢啓二前監督が復帰したのだ。だが日本ハムは最下位から浮上できないままで、閉幕後に大沢は監督を退いた。 けれどもメジャーリーグでは、GMから監督途中就任の成功例もいくつかある。今年4月に死去したホワイティ・ハーゾグは、80年6月にセントルイス・カーディナルスの監督に任命され、8月に辞任してGMに就任したが翌81年はGM兼任で監督に復帰。そして82年は再び監督に専念、自らがGMとして獲得した選手たちの活躍によってワールドシリーズを制した。 翌83年は、7月にフィラデルフィア・フィリーズのポール・オーウェンスGMがパット・コラレス監督を解任。「私なら勝たせられる」と宣言して後任に収まった。オーウェンスは72年にもシーズン中にフィリーズの監督を代行しており、現場復帰が11年ぶりだったのは渡辺監督代行と同じ。この時点で43勝42敗、貯金1とはいえ地区首位だったので、異例の人事は物議を醸した。しかしスティーブ・カールトン、ピート・ローズら癖の強いベテランが揃う集団をオーウェンスは巧みに操縦し、こちらもワールドシリーズ優勝。自らの決断の正しさを証明した。 メジャー史上4位の通算2504勝を記録した名将ボビー・コックスも、GMから監督に横滑りしている。監督として85年にトロント・ブルージェイズを地区優勝に導いたコックスは、86年アトランタ・ブレーブスにGMとして招聘され、90年6月ラス・ニクソンに代わって監督に就任した。この年は最下位から抜け出せなかったが、監督専任となった翌91年は一気にリーグ優勝。その後、2005年まで実に14季連続地区優勝(労使紛争でシーズンが途中で終わった94年を除く)の快挙を成し遂げ、95年にはワールドシリーズ優勝。14年に殿堂入りを果たしている。 最近の例では、15年5月にマイアミ・マーリンズがマイク・レドモンド監督を更迭し、ダン・ジェニングスGMを指揮官に据えた。スカウト上がりのジェニングスはメジャー球団どころか、マイナーでも指導者歴がなかった異色の指揮官。順位は着任時の地区4位から3位に上がったものの、閉幕後は監督だけでなくGMの任も解かれた。彼の一番の功績は、シーズン最終戦でイチローをマウンドに立たせたことだったかもしれない。 自分自身がチームを編成したのだから、GM以上に選手たちの能力を把握している人間はいないはず。そう考えれば、GMが監督を代行するのは理に適っている。トレードで補強したいと考えた時も、普通の監督とは違ってすぐに動ける。だが、監督を替えざるを得ないような戦力しか用意できなかったのもGMの責任。その責任は自分で取るしかなく、結果が出なくてもGMのせいにはできない。 監督を替えただけで、西武が浮上するようには率直に言って思えない。それでもハーゾグやオーウェンス、コックスのような成功例があるのは、少しは希望になるかもしれない。 文●出野哲也 【著者プロフィール】 いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB――“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『メジャー・リーグ球団史』『プロ野球ドラフト総検証1965-』(いずれも言視舎)。
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