じつは「東大卒」の研究者だった…! 絵本作家・かこさとしさん流「小学生からの理系教育」の”すごい極意”
理科離れをなんとかしたい
藤嶋さんは以前から、理科教育にも熱心に取り組んでおり、出前授業も頻繁に行なってきた。新型コロナウイルスが流行する前は、1年に100回ほど出前授業を行なっていたという。頻度は減ったものの、現在も積極的に出前授業を行なっている。出前授業では、かこさんの『ピラミッド』や『ならの大仏さま』が教材になることもある。 出前授業では、身近な話題からスタートする。「身の回りには不思議なことがたくさんあります。たとえば空はなぜ青いのか。雲はなぜ白いのか。そういった身近な話題から入っていくと、みんな本当に一生懸命に話を聞いてくれます。質問も、うるさいくらいに出てきますよ」と笑顔で語る。 藤嶋さんが出前授業や理科教育に熱心に取り組むモチベーションは、子どもたちの理科離れだという。 「理科離れに関して『七五三問題』と言われる問題があります。理科を好きな子どもの割合が、小学5年生では7割いるんですが、中学2年生では5割になり、高校2年生では3割になる。これが七五三問題です。その七五三という割合を、私は八六四にしたいと思っているんです」 資源やエネルギーに乏しい日本で、科学技術立国と言われるようになって久しい。しかし理科離れが続けば、科学技術立国としての日本が立ちいかなくなることを藤嶋さんは憂慮している。「ではどうしたら良いか。やはり理科を好きになってもらわないといけません。七五三のそれぞれを1割ずつアップしたい。そう思って出前授業をはじめたのです」 藤嶋さんは、中学校や高校の出前授業では「知好楽」という論語の言葉をよく紹介するという。「まずは知ること。数学でも英語でも、まずは勉強することが大事です。そのあとで好きになる事も大事。でもそれだけでは足りません。本物になるには、楽しい境地になるまで理解しないとダメなんだという話をしています」 自分の子供に理科に興味を持ってもらいたい場合にはどうしたらよいだろうか。そのためには、まず身の回りのことに興味を持ってもらうことだと藤嶋さんはいう。 「興味の対象はなんでもいいんです。道を歩いていて、雑草の名前、木の名前、なんでもいいので関心を持つことが大切です。最初は名前もわからないと思いますが、図鑑などで調べて、一つわかるとどんどん面白くなっていきます。 一つずつ知っていくと、だんだん見る目が違ってきます。それまで気づかなかった草や木が、ここにもある、あそこにもある、となっていきます。そういうきっかけを作ってもらえれば良いのではないでしょうか」 かこさとし 1926年福井県越前市生まれ。東京大学工学部応用化学科卒(1948年)。工学博士。技術士(化学)。1951年から会社勤務の傍ら東大セツルメント活動に携わり、工場地域の子どもたちを対象に子ども会の主催を約20年続けた。のちにその経験から多数の絵本を発表。専門性を活かした『かわ』、『海』、『地球』、『宇宙』などの科学絵本の他、『からすのパンやさん』、「だるまちゃん」シリーズなどの物語絵本などさまざまな分野で600点以上の著作がある。 藤嶋 昭 酸化チタンの表面に光が当たると強い酸化力が生じて臭いを消して環境をきれいにするなどの「光触媒」の研究で知られ、文化勲章を受ける。現在も研究を続けながら、全国の小中高大学で、実験を交えた講演を行い「身のまわりの不思議」を通して科学の面白さを伝える活動をしている。東京大学特別栄誉教授、東京理科大学学長、日本化学会会長などを歴任。
岡本 典明