じつは「東大卒」の研究者だった…! 絵本作家・かこさとしさん流「小学生からの理系教育」の”すごい極意”
かこさとしさんとの思い出
「かこ先生と知り合ったのは、私が講演を依頼したことがきっかけでした」と藤嶋さん。 藤嶋さんは東京大学を退官後、2003年から神奈川科学技術アカデミー(現・神奈川県立産業技術総合研究所)の理事長を務めていた。「2004年に、川崎市にあるKSP(かながわサイエンスパーク)内に光触媒ミュージアムを作りました。来館者数の目標が年間1万人だったのですが、実際の来館者は7000~8000人。入場者を増やすため、親子連れの来場を見越してミュージアムの展示の入り口に絵本を置くことにしたんです。調べていくと、かこ先生の本が人気があることがわかり、買いそろえていきました」と藤嶋さん。 やがて来館者が1万人に達するようになり、それを契機にかこさんに講演を依頼することにしたという。 実際に講演を企画してアナウンスすると、すぐに席が埋まり、実際の講演会も大盛況となった。その後、親交が深まっていき家族ぐるみの付き合いに発展した。今回の化学絵本の監修も、かこさんのご家族からの希望によるものだ。 2010年には『太陽と光しょくばいものがたり』(偕成社)という絵本を、藤嶋さんとかこさんが共同で制作することになった。その絵本をいっしょに作ったことが、かこさんとの一番の思い出だと藤嶋さんはいう。 「かこ先生自身が内容をよく理解された上で、かこ先生流の絵を描いていただきました。絵本だからといって内容を省略することなく素晴らしい本に仕上がりました。 光触媒の本に限らず、かこ先生の絵本は、その分野全体をよく見ている上に本質をついています。これだけさまざまな広い分野のものを書いている人は他に知らないですね。よくぞあれだけのことを勉強なさっていて、驚きですよね」 「だるまちゃん」シリーズなどからはイメージしづらいかもしれないが、かこさんは東京大学工学部を卒業したのち、昭和電工の研究所で研究職として47歳まで勤務していた。もともと工学博士・技術士(化学)であり、絵本作家としては珍しく理系分野に非常に理解のある人物であった。そして実際、科学系の絵本を数多く残している。 世の中にある子ども向けの科学系の本は、結論だけを述べて難しそうな説明は省いてしまっているものが多い。しかし、かこさんの科学絵本は、藤嶋さんも語っているように、子ども相手だからといって内容を省略していない。子どもにとっては理解するのが大変な部分でも、順を追って省略することなく説明をしているのだ。 今回刊行した『新・絵でみる化学のせかい』シリーズでもそれは変わらない。『新・絵でみる化学のせかい』はそれぞれ、原子や分子、元素や周期表、化学技術、自然の化学、資源とエネルギーといったテーマを取り上げている。それらのテーマについて「だるまちゃん」シリーズなどでおなじみの絵のタッチそのままに、化学のさまざまな分野の内容を丁寧に紹介している。「それぞれの巻で、各分野を概観できるようにうまくまとめられています。すでに化学に関係している人だけでなく、化学に直接関係していない人たちにもぜひ読んでほしい」と藤嶋さんはいう。