クルマと都市がともに進化 メルセデスの考える2040年の自動車社会
未来を見据えた要素技術
出し物の多くでは、ヘッドセットを装着したAR、VR、MRのデモンストレーションがあった。ディーラーに行かずとも車種が選べるMRバーチャルショールーム(「Apple Vision Pro」を使用)や車内エンターテインメントを楽しむARグラスなどを体験させてもらったが、ヘッドセット自体がまだ大型で装着に手間取るし、うまく作動しないトラブルがデモ中に何度も発生した。個人的には、普通の眼鏡くらいのサイズになって、スマートウオッチくらいの接続容易性がないと、この手の技術は利便性が享受できないと思った。 このほかにも、バイオテクノロジーを駆使し遺伝子組み換えによりシルクタンパク質を精製、光沢のあるシルクのような糸をつくってインテリアトリムに使用したり、リサイクルプラスチックによる代替レザーをシート表皮に採用したりするなど、サステイナビリティーに根ざした素材開発も行っているという。個人的に興味をそそられたのは「インドライブブレーキ」だ。電動ドライブユニット内にブレーキを組み込んで、いわゆる回生ブレーキのみで制動を行う。これならば、ばね下は軽くなるしディスク/パッドの交換も必要なくなるしホイールも汚れない。そして人間の髪の毛よりも薄く1平方メートルあたりわずか50gという軽さのソーラー塗料を開発。これでBEVのボディー全体をラッピングのように包み込むと、中型SUV1台分の面積で、年間1万2000km走行分の電気を太陽電池によって生成できるそうだ。この発電システムは駐車している状態でも作動する。 開発中のすべてがもくろみどおりに実現するとは限らないけれど、その確率を少しでも上げるためには、たとえ絵空事のような技術であったとしても、ひとつでも多くのトライをすることが何より大事なのだろうと思った。 (文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)
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