【中村憲剛×小林有吾対談 前編】真っ白な紙にゼロから作る作品が感動を与え人生をも変えてしまう。『アオアシ』を通じて漫画の力を改めて強く感じた
中村憲剛さんの対談連載「思考のパス交換」、12人目となったゲストは大人気サッカー漫画『アオアシ』の作者で漫画家の小林有吾さん。中村さんは小林さんと交流を持って以降、このマンガに「協力」という形で作品に参加するようにもなっています。小林さんが愛媛在住のため、いつもは電話やLINEでのやり取りをしているそうで、なんと今回の対談がリアルでは初対面! 前編は2人の出会いから、小林さんの取材へのこだわり、憲剛さんの熱烈な『アオアシ』愛まで、熱いトークを繰り広げていきます。 【画像】中村憲剛と『アオアシ』作者の小林有吾、初のリアル対談!
憲剛さんを取材することで、もう一つ先の答えを得たかった
中村憲剛(以下、中村) やっと直接、お会いできましたね。 小林有吾(以下、小林) はい、本当に。 中村 待ちわびていたのに、いざこうして会ったら会ったで、いつも会っているような不思議な感覚になります(笑)。 小林 その感覚、分かりますね(笑)。 中村 僕は現役時代からずっと『アオアシ』の愛読者。(2020年シーズン限りで)引退する際に自分のイラストを小林先生に描いていただきました。その感謝の気持ちをどうしても自分の言葉で伝えたくて、川崎フロンターレの元チームメイトで、当時愛媛FCでプレーしていた(森谷)賢太郎が先生と交流を持っていたので、リモートでつないでもらったのがきっかけでしたよね。 小林 別にそこまでされなくてもいいのに、わざわざ直接、お礼を言っていただいて。画面の向こうに憲剛さんがいたときは、「これ現実なのかな」って思いながら会話をした記憶がありますよ。 中村 (交流は)そこからですよね。LINEだったり、オンラインや電話だったり、先生がサッカーのことをいろいろと質問してくれるようになって。 小林 自分のLINEを見たときに、憲剛さんのアドレスがなぜか入っているぞ、と(笑)。 中村 賢太郎が交換してくれていたんですよね。 小林 行くべきか行かないべきか迷ったけど、勇気を出して連絡して質問させていただきました。最初は文面を送ってみたけど、電話のほうが早いとなって、奥さんにも、『ちょっと憲剛さんに電話で聞いてくる』って言うと、『えっ、何それ?』って驚かれました。 中村 奥さまとそんなやりとりがあったんですね。 小林 憲剛さんには、もう一つ先の答えを得たかったんですよね。『アオアシ』がどんどん専門的になって、内容のハードルが上がっていくなかで、(取材などでうかがう)選手のみなさんの言葉がものすごく(作品の)力になっているのは間違いないこと。ちゃんと答えを得てはいるんですけど、さらにもっとこれだっていう確実な答えというか、その先の答えが欲しくて。偶然とはいえ憲剛さんと知り合いになることができたし、僕はありとあらゆる手段を使って(『アオアシ』を)面白くしたい思いが強いので、聞いてみようと思って恐々と連絡したんです。 中村 恐々する必要ないのに(笑)。ちなみに先生のいう答えというのは? 小林 選手ですら本当に考えないと出てこない答えじゃないかな、と。たとえば、素人目にはこっちに絶対パスを出したほうが有利に見えるのに、敢えて選手はこっちにパスを出すことってあるじゃないですか。そういうときの考えを聞きたいというか、そういう取材が楽しいんです。せめぎ合いみたいなところにもなるので。 中村 先生からは、普通なら聞かれないような本当に細かいところを聞かれるので、僕自身すごく新鮮なんです。答えることで言語化して考えを整理できるから、自分自身の勉強にもなる。時間に制限がなければ、ずっと質問が続く感じというか、この熱量が『アオアシ』という作品に反映されていると思いましたし、先生はまさにイメージどおりの人でした。 小林 憲剛さんは言葉のチョイスがうますぎるんですよね。聞いていた頭に映像が浮かびますから。相手の人がちゃんとイメージしやすいように話をする印象です。その点では、サッカー選手のなかで群を抜いているって思いました。 中村 相手が分からなければ意味がないといつも思うんです。サッカーも同じで、チームメイトがイメージしやすいような内容、タイミング、言葉のチョイスはプロ18年で積み上げきたものでもあるので、(聞いてくる)相手がどんなことを欲しているのかを汲み取ってやってきたつもりではあります。 小林 自分も一緒ですね。(漫画も)伝わらないと意味がない。分かりやすくっていうのはものすごく意識します。自分が面白いかどうかっていうよりも、読んだ人が面白いと感じてもらうことが大事。とても共感できる部分です。