セールスフォースベースの「クラウドERP」新勢力は奏功するか
業務アプリケーションのクラウド化において企業が最も慎重になりがちなのが、統合基幹業務(ERP)だ。その「クラウドERP」を普及させるべく、「ERP Cloud 360 コンソーシアム」という新勢力が誕生した。果たして、この新たな取り組みは奏功するか。 ターゲットユーザーを中堅企業にした理由 ERP Cloud 360 コンソーシアムは、顧客関係管理(CRM)の最大手である「Salesforce」のプラットフォーム上で業務アプリケーションを展開するテラスカイ、シナプスイノベーション、チームスピリットの有力ソフトウェアベンダー3社が、クラウドERPを普及させようと設立した団体だ。その活動内容や特徴について9月26日に記者会見を開いた。 会見では同コンソーシアムの理事メンバーとして、テラスカイ 取締役 専務執行役員 製品事業ユニット長の山田誠氏、チームスピリット 代表取締役 最高経営責任者(CEO)の道下和良氏、シナプスイノベーション 代表取締役 常務の鈴木孝信氏が説明役を担い、特別賛助会員であるセールスフォース・ジャパン 専務執行役員 アライアンス事業統括本部 統括本部長の浦野敦資氏も同席した(写真1)。 同コンソーシアムでは、各社のさまざまな業務アプリケーションを「ERP Cloud 360」としてSalesforceプラットフォーム上に一元化することで、顧客企業に最適なERPソリューションを提供していく構えだ(図1)。 ビジョンとしては、「中堅企業がデジタル化を推進するための新たな選択肢となる」「Salesforceプラットフォームの利点を生かして、エコシステム全体で継続的なイノベーションを中堅企業に届ける」「急発展するAI技術を活用して、中堅企業が直面している労働力不足の現実課題を解決する」の3つを掲げている。 会見の内容については関連記事をご覧いただくとして、本稿では筆者が注目した点と懸念を挙げ、この新たな取り組みが果たして奏功するか、考察してみたい。 注目した点は、次の3つである。 1つ目は、ターゲットユーザーを中堅企業にフォーカスしていることだ。 同コンソーシアムはこの点について、「中堅企業では、自社の規模に合った機能を適正な価格で利用でき、日本の商習慣に合った使いやすいクラウドERPの選択肢が限られていることが課題となっている。ERP Cloud 360はSalesforceプラットフォームを共通基盤とし、コストを抑えたアプリケーション開発の実現やAIをはじめとした最新技術の活用により、中堅企業が抱える課題の迅速な解決を目指している」と述べた。 さらに、政府が2024年を「中堅企業元年」と位置付け、中堅企業の成長と事業拡大を促すための施策や補助金などの支援を打ち出していることもフォーカスの理由として挙げた。政府による中堅企業の支援については、2024年5月9日掲載の本連載記事「中堅企業は4つのハードルを乗り越えてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めよ」でも取り上げたので参照していただきたい。 筆者が取材してきた中でも「中堅企業にフォーカスしたクラウドERP」は狙い目の市場だとの感触がある。それだけ難しさもあると感じているが、チャレンジすべき領域だろう。 2つ目は、Salesforceプラットフォーム上でビジネスを行うことだ。 同コンソーシアムはこの点について、「3社がそれぞれ得意とする業務アプリケーションをSalesforceプラットフォーム上に統合し、データや業務プロセスの連携を図る。また、各社の顧客基盤を活用し、クラウドERPの導入コンサルティングから提案、販売までを展開する。これにより、お客さまの経営資源を一元管理し、効率化するだけでなく、継続的な事業成長のために、経営を最適化し業務DXを支援していく」と述べた。 なお、特別賛助会員としてSalesforceプラットフォームを提供するセールフォース・ジャパンは、共同でのマーケティング活動やSalesforceの最新技術を提供する。Salesforceプラットフォームによってアプリケーション間の連携とともに、最新のAIやセキュリティの技術を活用できるのはユーザーにとって大きな魅力だ。 企業にとって、ERPとCRMはDXの要だ。ならば、CRMの基盤であるSalesforceプラットフォーム上にERPがあれば、経営管理のクオリティが一層上がる可能性がある。「Salesforceベース」であることは、それだけで強力なブランドだといえよう(図2)。