決済の規制改革が山場へ、ポイントや電子マネー、暗号資産はどう変わる?
暗号資産でも法改正の動き
フィンテックにおける利用者保護の議論は、キャッシュレス決済の分野に限られません。 暗号資産については、米FTXの破綻によって、利用者の資産を守るルールの厳格化を求める声が強まっています。 FTXが2022年11月に経営破綻した当時、FTX Japanは資金決済法による「暗号資産交換業者」と、金融商品取引法(金商法)による「金融商品取引業者」の両方で、金融庁の登録・認可を受けていました。 破綻を受け、関東財務局はFTX Japanに対し、金商法に基づく資産の国内保有命令を発出。親会社や関連会社へ暗号資産が移されれば、国外流出によって日本国内の投資家に不利益が生じるおそれがあったためです。 国外流出を食い止めたこの実績は金融庁にとってある種の成功体験となり、現在の制度枠組みの議論を方向付けています。 ここでポイントとなるのが、FTX Japanが金融商品取引業者であったということです。 日本で営業している暗号資産業者は、2024年10月末時点で29業者。その多くは、金融商品取引業者としてではなく、もっぱら暗号資産交換業者として登録されています。 FTXのケースでは日本法人がたまたま金商業者だったため、金商法による国内保有命令を出すことができました。 でも、仮にいつか「金融商品取引業者ではない暗号資産交換業者」が経営破綻した場合、国内投資家の資産が流出してしまうおそれがあるのです。 こうした制度上の弱点を解消しようと、資金決済法でも資産保有命令が出せるように法改正する方向で議論が進められています。
ステーブルコインの「発行見合い金」見直しも
この他にも金融庁では、ステーブルコインやクロスボーダー収納代行についても環境整備に向けた検討を進めています。 現在の制度では、特定信託受益権型のステーブルコインを発行する場合、発行者は発行額と同額を「発行見合い金」として、円建ての場合は日本円の預貯金で確保しておく必要があります。しかし海外では、一定の条件で「現金以外の資産」も認められています。 たとえば、米国・ニューヨーク州では「満期まで3か月以内の米国債等の安全資産」でも発行可能です。日本でもこれに足並みをそろえて国債などで対応ができないか、議論されています。 また、交換業者と利用者とステーブルコインの仲介業として「暗号資産・電子決算手段仲介業」(仮称)という新たな業態を法律で規定し、金融庁の監督下に置く案も浮上しています。 国境をまたいだ資金の移動を支えるクロスボーダー収納代行サービスについても、現行の事業者の中には資金移動業の登録を受けていない企業が含まれています。 いざという時の利用者保護や、マネーロンダリング(資金洗浄)防止の観点から規制強化を求める声が以前から上がっていました。 金融庁は、一定の条件を満たした一部の仲介者について資金移動業者の登録を必要とするよう整理する方向で議論を進めています。 このように一連の制度改正の議論は、利用者保護のための規制強化の方向性と、海外主要国との歩調合せなどを目的とした規制緩和の双方向で検討が進められています。 テクノロジーの発展を背景にビジネス形態も多様化するフィンテック領域では利害関係も年々複雑化しており、金融庁がそれぞれの論点でどのような結論を出すのかに引き続き注目です。
執筆:小達 紀治、編集:ジャーナリスト 川辺 和将