遠藤周作『沈黙』の舞台、そして潜伏キリシタンの足跡を訪ねて 天草・崎津漁港に立つ「海の天主堂」&日本の「教会建築の父」鉄川与助物語【前編】
天野 久樹(ニッポンドットコム)
世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は、6市2町の計12資産で構成される。このうち唯一、長崎県以外にあるのが熊本県天草市の﨑津(さきつ)集落だ。禁教期に仏教、神道、キリスト教が共存し、漁村特有の信仰形態を育んだ集落には、「海の天主堂」と呼ばれ親しまれる教会が、周囲の景観に溶け込むように立っていた。
島原半島からフェリーで“離島”天草へ
潜伏キリシタン関連の集落や教会を巡っていて感じるのは、目的地までの交通が不便なことだ。長崎市中心部にある大浦天主堂を除くと、基本的にレンタカーやタクシーの利用がアクセスの前提となっていて、公共交通機関を使うと時間も体力も数倍かかる。 それでも、私は可能な限りバスと電車で回ることにした。そのほうが旅をより楽しめ、記憶に残るものになると思ったからだ。 いま全国各地で路線バスがどんどん廃止や減便に追い込まれている。そんな窮状も肌で感じながら、地元の人たちの世間話に耳を傾けたり、車窓の景色を眺めたり、時に運転手さんと言葉を交わしたり……。 そうしてたどり着いた先で見る教会の姿は格別美しい。熊本県天草市の崎津教会もそうだった。
長崎駅から天草に向かう最短手段は、路線バスで25分ほどの茂木港からフェリーで富岡港に渡るルートだ。ところがフェリーの便数が少なく、富岡港からのバスの本数も少ない。 そこで私は諫早駅まで電車で移動し、そこから島原半島の南端にある口之津(くちのつ)港まで路線バスに乗ることにした。小浜温泉を経由して、海沿いを1時間半かけて走るこのコースは、橘湾と天草灘の海景色が車窓いっぱいに広がる。口之津港から天草の鬼池港までは、フェリーでたったの30分。便数も45~60分に1本と多い。 鬼池港からは、本渡(ほんど)バスセンター、さらに下田温泉でバスを乗り継ぎ、長崎駅から6時間ほどで﨑津集落に到着した。 午後1時、村は午睡をしているかのように静かだ。