“知能が高い”から「タコ」を保護するのは差別的か? 欧米で進む「動物福祉」の背景にある思想
知能が高い動物を保護するのは「優生思想」?
近年、タコの養殖を禁止する法律が成立している背景には、タコの知能・知性に関する研究が進んだことも影響している。 8月24日には、全米レベルでのタコ養殖禁止法を求める書簡がアメリカの学術雑誌『サイエンス』に掲載された。同書簡の筆頭署名者であり、環境に関する科学や政策を研究するジェニファー・ジャクエット教授(マイアミ大学)は、「日テレNEWS」の取材に対し「タコの知性はたくさん記録されている」などの回答を行っている。 タコに限らずクジラ・イルカの保護運動をはじめとして、動物福祉や動物の権利が関わる場面では、動物の「知能」や「知性」が重視されることが多い。一方で、「『知能が高い』という理由で特定の動物を保護するのは差別的な考え方だ」との批判も根強い。 今回のカリフォルニア州の法案についても、日本のネット上では批判の声が目立っている。X(旧Twitter)では、ナチス・ドイツが支持したことなどで知られる、「生きるに値する生命」とそうでない生命を区別する「優生思想」との類似を指摘する投稿も拡散された。 なぜ、苦痛を減らすことを目指す動物福祉の考え方に「知能」や「知性」が関わるのだろうか。
知性や知能は「欲求」と関連する
伊勢田教授は「『知能の高さ』は『福祉』と密接に関係する」と指摘する。 「福祉をどう定義するかについてはいくつかの考え方がありますが、少なくとも『欲求が満たされること』が福祉の重要な要素である点は、どの立場からも認められます。 そして『どういう欲求を持つか』は『自分の周りの世界を解釈する能力』、つまり知能や知性と密接に結びつきます」(伊勢田教授) たとえば、「家族と一緒にいたい」「好きな相手といたい」という欲求は「家族」や「好きな相手」を認識していなければ持ち得ない。また、「死にたくない」という欲求も、「死」という概念を理解しなければ持ち得ないだろう。 動物福祉では「狭い場所に閉じ込めること」が問題になる場合が多い。そして、知能が高い動物のほうが「閉じ込められたせいで満たされなくなった欲求」のリストが長くなり、それだけ閉じ込められることによるマイナスも大きくなる、と考えられる。 タコの場合、他の多くの動物と同じように苦痛や精神的ストレスを感じるため、「苦痛やストレスを抱きたくない」という欲求を持つことになる。それに加えて、タコは好奇心が強くさまざまな遊び行動をすることが判明しているため、狭い場所に閉じ込められると「遊びたい」「自由に行動したい」といった欲求も犠牲になると推察される。これらの欲求がタコの知能や知性と関係している、ということだ。