“知能が高い”から「タコ」を保護するのは差別的か? 欧米で進む「動物福祉」の背景にある思想
カリフォルニアでは住民投票で規制が実現してきた
世界的にみても、カリフォルニア州では動物福祉に関して厳しい規制が行われている。 規制の成立にあたっては、住民投票による立法が主導的な役割を果たしてきた。2008年には「提案2号」と呼ばれる住民投票が行われ、子牛、ニワトリ、ブタなどが自由に体の向きを変えられる程度の面積を確保しない畜産の禁止が支持された。 2018年には「提案12号」により、ケージなどの大きさについてより具体的な数値基準が定められ、それを下回る広さでの飼育が禁止された。提案12号に対しては養豚業界から「不当な規制である」として提訴がなされたが、連邦最高裁判所は「合憲」との判断を下している。 「議会によって立法しようとすると、どうしてもロビー活動などの影響力が強くなり、畜産業のように大きな業界団体の利益に反する立法は困難になると思います。 住民投票で立法を進めることができる制度が存在するという点は、カリフォルニアでの取り組みの大きな強みだと考えます」(伊勢田教授) なお、今回のタコ養殖禁止法が住民投票ではなく議会で可決された点については、「通常の畜産業とは異なり、タコの養殖については議会に影響力を持つ業界団体が存在しないことが作用しているのだろう」と伊勢田教授は推察する。
ヨーロッパでも動物福祉の取り組みが進んでいる
動物福祉に関する規制が進んでいるのはカリフォルニア州に限らない。 歴史的に動物愛護運動の発祥の国であるイギリスでは、現在でも動物福祉に関する法制が充実している。また、近年ではEUが動物福祉の取り組みを先導しており、「EU規則」や「EU指令」という形で規制が次々に導入されている。これらは単なる勧告と違って拘束力を持つものであるため、影響力は非常に大きい。 例を挙げると、採卵用のニワトリの飼育に用いられてきた「バタリーケージ」は、きわめて狭くニワトリが身動きを取れないなどの問題から、2012年に原則全面禁止となった。また、動物の輸送についても、福祉に配慮する形でのEU規則の修正が2023年に提案された。 一方で、日本では、現在でも畜産動物の福祉に関する規制はほぼ存在しないという。