スティグリッツ教授「40年かけて実証された。サッチャーとレーガンが扉開いた新自由主義は失敗した」
■ チェック・アンド・バランスが必要だ しかし大きな政府は官僚主義の落とし穴に陥る危険性もある。「私が社会民主主義に求めることは、政府に大きな役割を担わせるために、政府や社会により広範なチェック・アンド・バランスのシステムが必要だということだ」とスティグリッツ氏は強調する。 イスラエルの報復攻撃によりパレスチナ自治区ガザで死者が3万4000人を超えた悲劇に抗議するコロンビア大学の学生が警官隊に排除されたことについて、スティグリッツ氏は「多くの問題が提起されているが、そのうちの1つは明らかに学問の自由の問題だ」と指摘する。 「多くの政治家、特に共和党の政治家は長年にわたって大学に“戦争”を仕掛けてきた。彼らは、私たちが学生にもう少し自分の頭で考えることを教えるのが気に入らないのだ。米国の強さの源はスタンフォードやハーバード、コロンビアといった大学から生み出されるテクノロジーや研究だ」(同) 「学問の自由に対する干渉であり、1940~50年代に赤狩りを進めた下院非米活動委員会以来見られなかったことだ。われわれのシステムが機能するにはチェック・アンド・バランスが必要だ。その1つが学問の自由であり、独立した大学が政府の行動を監視し、批判することなのだ」とスティグリッツ氏は力を込めた。
■ 米国では全資産の40%は上位1%が所有 スティグリッツ氏は「現在のような凄まじい不平等をなくす利点は金持ちの企業や個人に課税することでより多くのお金を得ることができるということだ。より社会が平等な時、上位の人たちに課税してもそれほど多くのお金を得ることはできなかった」と解説する。 例えば誰でも自分の富の少なくとも2%を所得税として支払わなければならない最低富裕税を創設する。米国では全資産の40%は上位1%が所有しているという試算もある。上位1%に課税するだけでも多くの税収を生み出すことになる。 「彼らは租税回避に非常に長けている。コロナ危機やロシアのウクライナ侵攻で物価が上昇している時、独占的な力を築いた企業は価格を吊り上げることができた。その利益に課税し、電気料金の支払いに充てることができていたら、インフレによる一般市民の痛みは和らげられたはずだ」(同) 「配管工として働く人よりも資本に低い税率を課すべきだという考えは私には全く理解できない。お金をうまく使っていることを示すことができれば、中産階級の市民にも税金は社会をより良くするために支払われるものだから良いものだと理解してもらうことができる」という。 【木村正人(きむら まさと)】 在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。 ■著者のその他の記事 ◎米議会がようやく決定したウクライナ追加支援、戦況に与えるインパクトはどれだけか(2024.4.30) ◎滞るウクライナ支援、「もしトラ」になれば米国は本当にウクライナを見放すのか(2024.4.21) ◎イスラエルへミサイル・無人機攻撃を仕掛けたイラン、アイアンドームによる迎撃も「計算の内」(2024.4.16) ◎人気衰えぬ「ABBA」、その陽気なサウンドの陰に秘められた悲しき秘密(2024.4.11) ◎いまやウクライナ軍にとって最大の脅威、塹壕を兵士ごと吹き飛ばすロシア軍の新型「滑空爆弾」(2024.4.8) ◎『オッペンハイマー』を観て考えた、広島・長崎の経験は「後世の核使用の抑止になった」と肯定的にとらえられるか(2024.4.2) ◎ファイブ・アイズが効力発揮、米英が突き止めた「中国が英国の個人を対象に大々的なサイバー攻撃」(2024.3.28) ◎【モスクワ郊外テロ】「背後にウクライナが」は眉唾、実行犯〈IS-K〉の過激なテロ遍歴(2024.3.25) ◎得票率87%、「永世大統領」化するプーチン、戦時体制強化でロシアはさらに暴走する(2024.3.19) >>もっと読む
木村 正人