五輪の悔しさばねに 東洋大の柳田大輝は大学最後の一年で東京世界陸上に挑戦
【若手記者コラム】来年9月、陸上の世界選手権が、東京・国立競技場で行われる。世界中の猛者たちが東京に集まるのは1991年以来34年ぶり。勝負の1年に向け、多くの選手が鍛錬の冬に入っている。その中の1人が、現在東洋大3年の柳田大輝(21)だ。今夏のパリ五輪では、400メートルリレーのメンバーとして予選で2走を走った。決勝は走ることができなかったが、初めての五輪というこれ以上ない経験を積んだ若きスプリンターだ。 今月3日、柳田の姿は同大のパリ五輪報告会にあった。学園祭と同時に開催した卒業生向けの「ホームカミングデー」のイベントの一つで、五輪・パラリンピックでともに日の丸をつけて戦った選手とともに、軽快なトークで会場を盛り上げた。印象的だったのは、その仲の良さ。男子400メートル障害の小川大輝(東洋大3年)や、男子400メートルの中島佑気ジョセフ(富士通)、吉津拓歩(ジーケーライン)、同競歩の川野将虎(旭化成)ら同大の在校生も卒業生も一緒になって突っ込みあっていた。その中心にいたのが、柳田だった。自分から率先して話し、その発言に周りが突っ込む。トラックを離れると愛されキャラなんだ、とほのぼのした。 東農大二高時代から、同世代では頭一個抜けた存在だった柳田。高校2年の日本選手権で7位、高3の同大会で10秒22の高校歴代2位(当時)のタイムをマークし、決勝は7位。同年の東京五輪は、400メートルリレーの補欠に食い込んだ。武器は、「押す力」で、高校の前の坂ダッシュで鍛えた足で、加速する。 そんな柳田は、今年6月に3・5メートルの追い風参考記録ながら、9秒97をマーク。風に乗り、初めて9秒台のスピードを体感した。ただ、初めての五輪代表を懸けた6月の日本選手権(新潟)で、2位までに入れば代表入り確実という場面で3位。前評判が高かっただけに、個人での代表入りを逃したのはまさかの結果だった。ただ、リレーでの代表入りが決まった瞬間から気持ちを切り替えたと後から語っていた。 だが、そのリレーでも、本番は予選しか走れず。メンバーを外れた悔しさから、レース前は涙が止まらず、まさに号泣している柳田を、先輩や代表コーチらに慰められている場面をテレビの映像を見て印象に残っている人も多いだろう。柳田にとって、パリ五輪に向けて駆け抜けた2024年は「いろんなことがあった1年だった」。充実感よりも悔しさを噛み締めるように語った。