日本サッカーの弱みは「チャレンジ」か。バレージがプレーで語る"世界標準"と、ピクシーのゴラッソから学ぶ技術と判断の関係
(図1解説:ゴールに迫るロマーリオに対し、後退しながら間合いを計ったバレージは、ロマーリオが進路をわずかに左へとった瞬間、急停止を試み、伸ばした右足にボールをひっかけた。ロマーリオが進路を変えた瞬間を見逃さずに後退を止め、そして、右足を伸ばした判断と技術は、見事の一語だった。) 守備の原則に《チャレンジ&カバー》があるが、バレージはどちらも超一流だ。この項でチャレンジの一例を持ち出したのも、長きにわたって日本サッカーの弱みとなってきたからだ。 バックスは一斉に後退─ここまでは一緒だが、肝心のシュートレンジに入っても誰もチャレンジに行かず、強烈な一撃を食らって失点してしまう場面があとを絶たない。しかと世界標準に照らして、判断と技術の両面を磨く必要がありそうだ。
バレージと同様、過去の偉大な名手を振り返れば、日本人になじみの深い「ピクシー」ことドラガン・ストイコビッチが演じた超絶技巧の例がある。名将イビチャ・オシム率いるユーゴスラビア代表の切り札として臨んだ90年イタリア・ワールドカップの決勝トーナメント1回戦。鮮やかにネットを揺らしたスペイン戦での伝説的な一撃だ。 左から山なりのクロスが放たれたとき、ピクシーはボックス内の右寄りの位置でフリーになっていた。誰もが右足のボレーを予想した次の瞬間、ピクシーは自らの足元にボールを収めると、シュートブロックを試みて地面に転がったスペインの選手をあざ笑うかのように悠々とゴール左へ蹴り込んだ(図2)。 (図2解説:ストイコビッチがボレーで狙ってくると読んだスペインのDFは、スライディングで体を投げ出した。だが、ストイコビッチは左クロスをまんまと懐に収めると、前に出てきたGKの動きを冷静に見極め、やすやすとゴール左へ。相手選手はもちろん、見る人すべてをあざむいたゴラッソだった。) ボレーと見せかけて、トラップを試み、シュートブロックをやり過ごす。狙い通りに事を運べたのも、あるいは、直前で判断を変えられたのも、まるで磁石のように吸いつく絶妙のトラップがあってこそ─だ。技術と判断は言わば1枚のコインの裏表であり、何が適切かは個人によって大きく変わってくる。ピクシーのゴラッソはその見本と言って良い。