血圧が上がらない程度の歩行が役立つ/医療ジャーナリスト・安達純子
「新薬登場で重要度が増す~認知症の早期発見と予防」<23> 毎日歩く習慣を持っていると、脳の高次機能を担う大脳皮質や記憶をつかさどる海馬でアセチルコリンが増えて血流がよくなり、大脳皮質で作られる脳を守るタンパク質(神経成長因子)も増加し、脳の神経細胞の死滅を防ぐ。この研究を行った東京都健康長寿医療センター研究所自律神経機能研究室の堀田晴美研究部長は、歩行速度や血圧と海馬の血流についても調べた。 「歩行速度が『速い』『普通』『遅い』のいずれの速さでもラットの海馬の血流は増え、歩行を止めると徐々に血流が戻ります。血圧が最も上がるのは『速い』ときでした。アセチルコリンは、普通の速さで歩いたときに増加します。血圧があまり上がらないような、無理のない普通の速さでの歩行は、海馬のアセチルコリンを増やすために役立つのです」 普通に歩く習慣だけで、海馬のみならず大脳皮質のアセチルコリンも増え、血流がよくなり神経成長因子もたくさん作られる。すると、神経成長因子は、アセチルコリン製造の大元ともいうべき大脳の奥のマイネルト基底核に届けられ、活性化するという。 「マイネルト基底核に障害が起こると、認知機能が低下します。ラットの研究では、老化によって萎縮したマイネルト基底核の細胞が神経成長因子によって回復することが示されています。軽度認知機能障害(MCI)の初期段階で、記憶力や集中力が軽く落ちたときに、歩行習慣を継続すると進行抑制につながる可能性があります」 毎日の無理のない歩行習慣で、認知症を退けよう!