「告発文書を世に知らしめたのは元局長ではなく斎藤知事その人です」なぜ知事らの行いが法律違反といえるのか、兵庫県議会・百条委での解説全文(後編)
公益通報とそうではない内部告発とは
さて、ここがとても大切なことなのですが、「公益通報」に該当しない内部告発であっても、労働法や民法の一般法理(懲戒権濫用など権利濫用の一般法理)によって保護されるべきものが実は多々あります。 2004年に公益通報者保護法案を国会で審理した際、政府の担当大臣は次のように答弁しています。 「この法案の保護の対象にならない通報については(中略)現状の一般法理による保護に変更を加えるものではない」 「公益通報」に該当しないからといってただちに不利益扱いが許されるわけではなく、正当な内部告発として法的に保護されるものがある、ということです。「公益通報」に該当しなくても、「公益通報」に準じる正当な内部告発もある。それを理由に不利益に扱うのは違法となる、ということです。 「公益通報」の外側にも、正当な内部告発はあります。そして、その外縁の線がどこにあるかは、裁判所の裁量的な判断に負っており、グレーゾーンがあります。 公益通報者保護法は、もともとの成り立ちが民事的な利害調整のための法律、労働法制の一部でしたので、最終的な判断は裁判所に仰ぐ、というたてつけとなっています。 そのことは念頭に置いておく必要があります。
告発文書は「公益通報」に該当する
私の見ますところ、今回の告発文書には様々な内容が含まれています。その真実性や真実相当性の程度は様々だと思われます。噂話程度の内容も含まれているのかもしれませんが、直接それを見聞きした人から聞き取って裏付けられているとみられる内容もあります。外形的な事実関係が大筋でおおむね正しかったといえる内容が多々含まれています。意図的なウソ、虚偽は見当たらないように思われます。 冒頭に書かれている公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構の副理事長人事の件のように、社会的に批判を受けることはあっても、法令違反ではない、という内容が含まれています。この部分についても、私の個人的な意見ですが、公益通報ではないが、法的に保護されるべき正当な内部告発に該当する、と思います。これについて詳しくは別添2の原稿(注:記事下にリンクあり)をご用意いたしましたので、ぜひご参照ください。 公益通報とそうでない外部への情報伝達が混在している内部告発をめぐっては、徳島県が被告となった裁判例があります。 徳島新聞に職場の不祥事を告発し、記事になった後、意に沿わない人事異動を命じられた県職員による提訴を受けての控訴審で、高松高等裁判所は2016年7月21日、「公益通報に該当する部分を区別せず……係長職への適格性に関わる能力についての消極的要素として考慮したことは、公益通報をしたことを理由に不利益取扱いをするもので、公益通報者保護法の趣旨に基づき適用すべき地方公務員法15条、17条に違反し、国賠法上の違法を構成する」と述べて、県職員を一部救済しています。他方、公益通報に該当しない部分について、係長昇任の消極的要素として考慮したことを裁量の範囲内と認めています(高松高判平成28年7月21日(D1-Law.com判例体系28250751、平成27年(行コ)3号)) 公益通報者保護法で保護されるべき「公益通報」が含まれている可能性があるのでしたら、知事や副知事はそれを見出し、他の内容と区分する必要がありました。軽々に「真実相当性なし」「公益通報に該当せず」と判断するのではなく、「内部公益通報」に関する調査が終わるのを待つべきだった、あの段階、あの程度の状況で、「公益通報」に当たらない、と判断したのは拙速に過ぎた、私にはそう思われます。 結果的に、告発文書には、法的に保護されるべき「公益通報」が含まれていることが今や明らかになっていると思われますので、私は、知事らのふるまいは公益通報者保護法に違反すると考えています。