「告発文書を世に知らしめたのは元局長ではなく斎藤知事その人です」なぜ知事らの行いが法律違反といえるのか、兵庫県議会・百条委での解説全文(後編)
信ずるに足りる相当の理由
2号通報、3号通報といった外部への通報については、その通報内容について信ずるに足りる相当の理由(真実相当性)があったことが、公益通報者保護法による保護対象となるために必要となります。 真実相当性をめぐっては、実は、「行政機関の側において…、真実相当性の要件を硬直的に解釈することにより、通報の放置など不適切な対応が行われている」というような事例が従来見られ、2016年ごろ、公益通報者保護法の改正の検討の過程で問題視された、という経緯がありました。そのため、公益通報者保護法を所管する消費者庁が主導し、2017年、国の行政機関や地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(外部の労働者等からの通報)を改正し、次のように明確化しています。 「真実相当性の要件が、通報内容を裏付ける内部資料、関係者による供述等の存在のみならず、通報者本人による供述内容の具体性、迫真性等によっても認められ得ることを十分に踏まえ、柔軟かつ適切に対応する」 今回の兵庫県の場合にとても参考になる考え方です。 これまでの多くの事例についての私の観察によりますと、現場で働いている人たちにとって、疑わしい行為の一端を見聞きしても、それが本当に違法行為の一端なのか、あるいは、単に、かけらだけに過ぎなくて違法行為は不存在なのか、思い悩む場合が往々にしてあります。 そうしたときに、積極的に公益通報してもらうためとの観点からすると、できるだけハードルを下げたほうがいい。疑われる違法行為の全体像を完全に把握して、その証拠書類をそろえるところまで求めると、通報を萎縮させてしまう恐れがあります。その通報によって害される利益がもしあるのだとすれば、それと比較衡量して、「信ずるに足りる相当の理由がある」の程度を設定していく、という考え方を採るべきだというのが私の意見です。
広く流布させることが目的だったとは言えない
思い込みや誤解など意図せざる事実誤認が含まれている内容をだれにでも読めるようにSNSなどで公開したということならば、そして、そこに真実と信ずるに足りる相当の理由がないのならば、それは名誉毀損などの違法行為に該当するかもしれません。しかし、西播磨県民局長は、あの告発文書を公開したわけではありません。 ご本人によれば、「配布先から世間に出回ることはないだろう」という判断の下で、「議会関係者、警察、マスコミ等」の10人程度に相手を選んで送った、とのことです。告発文書の末尾に、「関係者の名誉を毀損することが目的ではありませんので取扱いにはご配慮願います」とありますことから明らかなとおり、広範な伝播を意図したわけではなく、「兵庫県が少しでも良くなるように各自のご判断で活用いただければありがたい」というものです。 この告発文書をマスコミ関係者に送ったことについて、以下のような見解があるそうです。 「作成した文書を10人に配って、その中にマスコミ関係者がいたということは、報道してほしいという意図しか考えられない。マスコミは仕事柄知ってしまった以上書かざるを得ないから広がることを期待していたと評価されても仕方なく、流布したという認定は可能。」 多くの報道機関では通常、報道にあたって、それは公共の関心事なのか、つまりニュース性が高いかどうかを検討します。それを報じることが公益目的と言えるかどうかも検討します。裏付け取材を重ねた上で、真実性・真実相当性があるかを検討します。これらすべてがイエスとなったときに初めて出稿に踏み切ります。 「マスコミは仕事柄知ってしまった以上書かざるを得ない」というのは誤った見解です。 今回の告発文書の内容の真実相当性を判断するにあたっては、以上申し述べたことを踏まえる必要があります。斎藤知事ら県の判断の問題点など詳細については、別添1の原稿(注:記事下にリンクあり)をご用意いたしましたので、ご参照ください。