AIの時代にリアルな体感を お化け屋敷仕掛け人に聞く恐怖の奥義
『リング』はじめホラーで知られる中田秀夫監督の作品で、橋本環奈と重岡大毅がW主演する映画『禁じられた遊び』(公開中)がネットで話題だ。体感型ホラーエンターテインメントを謳う同作だが、東京ドームシティの常設アトラクション『怨霊座敷』を仕掛けたお化け屋敷プロデューサー・五味弘文さんとコラボしている。ネット時代にリアルな体感にこだわる五味さんにお化け屋敷の奥義を聞いた。
お化け屋敷の要はキャストと演出
- 五味さんはお化け屋敷にキャストを戻したと言われています。私は昭和の生まれで子どもの頃遊園地に行くとお化け屋敷にはお化け役のキャストがいるのが当たり前でした。 五味 全国に遊園地が増え始めたのが1950年代からで、60年代から70年代にかけてはまだキャストがいましたが、遊戯機器の進化に伴ってセンサーなど機械を使った演出が台頭して徐々に機械仕掛けに移行しました。僕がお化け屋敷に関わったのは平成に入ってまもなく1992年からですが、後楽園ゆうえんちのお化け屋敷を見てここにキャストを登場させたら面白いと思いまして。それでキャストをお化け屋敷に戻そうと。やっぱりお化け屋敷の要はキャストと演出であるべきだという流れがだんだん出来てきた感じはします。 - 五味さんは少年時代からお化け屋敷は好きでしたか? 五味 いつ最初にお化け屋敷に入ったのか覚えていないのですが、子どもの頃自分の家にお化け屋敷を自作していたんです。実家は長野でしたが、お盆に東京から親戚が帰郷してくるのに合わせお化け屋敷を準備して驚かす。なので好きだったことは間違いないです。
コミュニケーションが作るエンターテインメント空間
- キャストがいるお化け屋敷って演劇空間に通じるものがあるのではと。 五味 機械だけのお化け屋敷はコミュニケーションが希薄です。キャストがいることでコミュニケーションが起こる。直接会話はしなくても、キャストがお客さんの様子を見ながらこのタイミングで仕掛けよう、と。お客さんはお客さんで、キャストがいつどこで出てくるかを想像しながら歩く。機械だけの場所をただ観てまわるのと比べると演劇空間に近いのかもしれません。 - テレビ番組と視聴者との関係性とはちょっと違う対面での関係性ですね。 五味 何らかのコミュニケーションが生まれ、一つのエンターテインメント空間が出来上がる感じです。僕が思うにお化け屋敷の熱狂や興奮は、キャスト側が仕掛けていくのですが、最終的にはお客さんが作っていくものだと思っています。 - 五味さんがおっしゃるコミュニケーションとは具体的にどんなものですか。 五味 日常的な空間ではなく異様な空間に入って行くお客さんは、危険や恐怖を察知するアンテナが強く張っているわけです。感受性が強く働いている。それをキャスト側も感じ取って仕掛けられる。意識の深いところで通じ合っている、そういうコミュニケーションがおそらくそこにあるんだと思います。 - 仕掛ける、驚かすタイミングということですかね。 五味 それだけではありませんが、タイミングが噛み合うと演出も功を奏する。息が合わないと、失敗したな、となる。日常的な空間でのコミュニケーションとは少し違って、別の感受性と感受性とのぶつかり合いみたいなところのコミュニケーションがいつも働いているんじゃないかという気がします。 - となると、果たしてどういう方がキャストに向いているんですか。適性のある方を募集して集めるわけでしょうか。 五味 やはり演技の経験者の方です。我々の場合はずっと長く担当している方がいて、そういう方がまた自分の芝居仲間の役者さんを紹介してくれたりします。なので募集するのではなく受け継がれ、広がっていく感じですね。キャストはお化け屋敷の中の一部で、演出のピークを担うことが多いわけです。お化け屋敷って入ってから出るまで悲鳴をずっと上げるような流れにすればどんどん怖くなるか?と言ったらそういうものでもないんです。ピークまでどうやって持って行くのか、お客さんの気持ちをどう作って行くのか?ということが大きな課題になってくる。お客さんとの心理戦ですね。