4連勝で2位浮上の横浜F・マリノスがV本命視される理由とは
今シーズン初の4連勝を告げる主審のホイッスルが、ホームのニッパツ三ツ沢球技場に鳴り響いた瞬間、横浜F・マリノスが刻んできた航路の先に目的地がはっきりと見えた。 鹿島アントラーズを抜いて、2位に浮上しただけではない。残り3試合をすべて勝てば、15シーズンぶりのJ1制覇を手繰り寄せられる。北海道コンサドーレ札幌から大量4ゴールを奪う、自力優勝の可能性を誕生させた快勝劇に、1ゴール1アシストをマークしたFW仲川輝人が声を弾ませた。 「勢いや流れというのはいま、自分たちにあると思っています。内容も圧倒しながら、目の前の試合を100%勝ち切る姿勢を目指していけば、いい景色が見られるんじゃないか、と」 9日に行われた明治安田生命J1リーグ第31節。昨シーズンからマリノスの指揮を執る、オーストラリア国籍をもつアンジェ・ポステコグルー監督のもとで標榜されてきた、攻防一体のアグレッシブなスタイルが前半のキックオフからわずか2分後に先制点を導いた。 ペナルティーエリアの外にポジションを取った守護神ク・ソンユンを交えて、自陣の中央でボールを回すコンサドーレへマテウス、エリキ、そして仲川の3トップがプレッシャーをかける。そして、パスを受けたク・ソンユンのトラップが大きくなった直後だった。 猛然と間合いを詰めてきたエリキがボールを奪い取り、無人と化していたゴールへ流し込んだ。今夏に加入したブラジル人ストライカーは、2分後に再び咆哮をとどろかせる。右サイドを抜け出した仲川が一度はボールを失いながら、しぶとく奪い返してあげたクロスにヘディングを見舞った。
1点を返された後の23分には、10月の月間MVPを受賞したばかりの仲川が輝きを放つ。センターサークル内でこぼれ球を拾うと、そのまま武器とする高速ドリブルを選択。コンサドーレの選手たちを置き去りにしながら約50mを駆け抜け、最後はク・ソンユンをもかわすスーパーゴールを決めた。 リードを死守する、という悲壮感はマリノスの選手たちから微塵も伝わって来ない。1点よりも2点、2点よりも3点とゴールを追い求め、攻撃は最大の防御なり、とばかりに試合を支配し続ける。目指すスタイルを、ポステコグルー監督は「このサッカーをするのは難しい」と胸を張って言い切る。 「その以前にこのサッカーをすると判断すること自体が難しいというか、それまでと違うサッカーをすることが難しい。信じる気持ちをどれだけ持続させられるか。信じる気持ちが固まってきたことによって、いまでは選手たちは1-0でも2-0でも引いて守ろうとはしない」 オーストラリア代表を率いて、ハリルジャパンとも対戦した指揮官が言及する「このサッカー」とは何をさすのか。戦術的には名将ジョゼップ・グアルディオラ監督がバイエルン・ミュンヘン時代に編み出し、マンチェスター・シティFCを率いるいまも実践している「偽サイドバック」があげられる。 ビルドアップ時にサイドバックの一人がタッチライン際ではなく、中央に絞ったポジションを取る。数的不利な状況を修正しようと、相手チームのサイドハーフも「偽サイドバック」をケアする。必然的にマークが薄くなる左右のタッチライン際に、ドリブルを得意とするウイングを配置する。 ウイングに指名されたのが仲川や東京五輪世代の遠藤渓太であり、夏場に名古屋グランパスから加入したマテウスとなる。そして「偽サイドバック」を演じる松原健やタイ代表のティーラトンは、ビルドアップ時だけでなくセカンドボールを拾うときにも数的優位な状況を作り出す。 ポジションごとの役割が、特にサイドバックの選手を中心に根底から覆される戦術であるがゆえに、昨シーズンは混乱を生じさせた。リーグ2位タイの総得点56をあげながら、総失点も3番目に多い56を数えた。12勝5分け17敗と大きく負け越し、順位も12位に甘んじた。