厚生年金「106万円の壁」が撤廃されると70万人の保険料負担は軽くなる 仕組みを解説。「手取り増に逆行」の批判は一面的だ
一方、主婦パートを中心とした90万人は第3号被保険者として今は年金保険料を自ら負担することはない。医療も夫の被扶養者として、やはり保険料負担はない。厚生年金と健康保険に入ることになれば、新たな負担が発生し、手取りの減少が生じる。これを「働き損」だとして問題視する大手シンクタンクの研究員もいる。 しかし、厚生年金に入ることで、将来受け取る年金は収入や加入期間に応じた「報酬比例部分」が上積みされて手厚くなる。医療保障の面でも、けがや病気で休業せざるを得なくなった際に収入減をカバーする「傷病手当金」が受け取れ、出産時には「出産手当金」が受給できる。女性の長寿化が著しいことも考慮すれば、こうした給付面のメリットがあることを度外視して「働き損」と断じるのは言い過ぎだろう。 ▽不安定雇用で働く人の処遇改善が大切 そもそも、厚生年金と健康保険の適用拡大が検討され始めたのは2000年代に入って間もなくからだ。当初の問題意識は、被用者として働いているにもかかわらず、被用者にふさわしい処遇を得られていない人たちの置かれた状況の改善にあった。
先の例で言えば、被用者なのに第2号被保険者になれず、第1号被保険者として国民年金・国民健康保険グループに留め置かれた人たちだ。1990年代から進んだ雇用の非正規化を受け、特に就職氷河期世代を中心に30~40代になっても不安定雇用で働かざるを得ない人が増えている。 厚生年金などの適用要件を逆手にとって、雇用主が保険料負担を避けようとして短時間・低賃金労働にとどめる動きも目立った。厚生年金と健康保険の適用拡大は、こうした不当な処遇を改めることに主眼がある。 主婦パートの手取り増に目を奪われるのではなく、これまで光が当たらなかった非正規雇用で働く人たちの処遇改善が進むことを期待してやまない。