厚生年金「106万円の壁」が撤廃されると70万人の保険料負担は軽くなる 仕組みを解説。「手取り増に逆行」の批判は一面的だ
一連の制度見直し案が実現した場合、新たに厚生年金と健康保険に加入することになる人は200万人。このうち90万人は配偶者に扶養される主婦パートを中心とした国民年金の「第3号被保険者」、つまり自らは保険料を負担せずに基礎年金を受給できる層に当たる。手取りが減るのはこの人たちだ。 しかし、そのほかの人のうち少なくとも70万人の手取りは増えることになる。70万人に該当するのは具体的には、被用者(雇われて賃金労働している人)として働いているのに賃金などが先ほど紹介した5要件に満たないとして、厚生年金と健康保険に入れていない現役世代―不安定な非正規の短時間雇用で働く人たちだ。シングルマザーの一部も含まれる。 こうした人たちは、今は国民年金の「第1号被保険者」として自ら月約1万7千円の国民年金保険料を支払い、医療では国民健康保険料を負担している。国民健康保険料は居住する市区町村ごとに算定方法が異なり、世帯人数などによって額も違うが、会社員らが負担する健康保険料より割高なのが通例だ。 厚生年金に加入できれば、この70万人は国民年金の「第2号被保険者」となって厚生年金保険料を支払うことになる。厚生年金保険料は賃金の18・3%で労使折半なので半分は雇用主持ちだ。国民年金の保険料よりかなり軽い負担で済む。健康保険料も労使で分担(雇用主が最低50%を負担)するから、国民健康保険料を下回るケースが大半だろう。つまり、年金、医療ともに保険料負担が大きく軽減される。
厚労省の試算では、例えば年金と医療の保険料合計で月2万3100円負担していた人の場合、見直し後は1万2500円となって負担はほぼ半減するという。 ほかにも、60歳以上で被用者として働いている40万人も見直し後は新たに加入対象となる。60歳以上なので、今は国民年金の「第1号」にも「第3号」にも属さないが、見直し案だと「第2号被保険者」となる。年金については、国民年金の任意加入被保険者として保険料を払っている場合は、厚生年金に移ることで保険料負担は減る。そうでない人は新たに負担が発生するが、前述したように厚生年金保険料は労使折半なので自らが支払うのは半分だけで、負担増は限定的だ。医療の保険料負担は前述の70万人と同様に軽くなる。 「手取り増に逆行するとの批判は一面的」と言うのは、こういう意味だ。少なくとも70万人の手取りが増えることなるという点は押さえておきたい。 ▽主婦パートの「働き損」は言い過ぎ