職場健診の胸部レントゲン検査は「意味がない」...!?毎年恒例の検査を「受けなきゃいけない」本当の理由
毎年1回は受けることが義務付けられている職場健診。健診結果の異常を示す「*」がついた数値には、実は気にしなくて良いものもあれば、今すぐに再検査を受けなければならないものもある。果たしてあなたは診断結果の本当の意味を理解しているだろうか。 【漫画】くも膜下出血で倒れた夫を介護しながら高齢義母と同居する50代女性のリアル BMI・血圧・尿糖・眼底など項目別にその検査結果の正しい見方を解説した『健診結果の読み方』(永田宏著)より一部抜粋してお届けする。 『健診結果の読み方』連載第9回 『心電図検査には問題だらけ…「異常判定」が「異常」に多くなる健診に隠された当然の仕組み』より続く
今の若者は知らない検査
健診の胸部レントゲン写真は、もともと結核の早期発見を目指して、戦後に始まったものです。しかし1960年代には、患者が急速に減少しました。代わって肺がんが急増してきたため、現在は主に肺がんの早期発見を目的として行われています。 ただ結核や肺がんのリスクが低い小中学生の健診では、2005年から「省略可」となり、現在は問診票に置き換えられています。問診で、とくに結核の疑いがある生徒に限り、教育委員会などで慎重に検討し、必要なら撮影という手順になりました。胸部レントゲン検査による被ばく量は少ないと言われていますが、問題のない子供たちまで受けさせる必要はありません。 結核というと、中高年世代の多くはツベルクリン検査を思い浮かべるのではないでしょうか。肘の内側より少し低いところに、注射器でツベルクリン液を注入すると、2日以内に発赤(ほっせき)が現れます。その大きさを測定して、BCG(結核ワクチン)を接種するかどうかを決めるという検査です。 しかし2003年には、問診票で必要と判断された子供のみ、ツベルクリン検査を実施するようになり、2012年からは完全に廃止されています。いまの若者の大半は、ツベルクリン検査を知りません。
レントゲン検査で肺がんを見つけられるか
高校と大学では、結核の集団感染の予防という観点から、原則として新入生のみ、レントゲンを撮影することになっています。岡山県では2012年に、全寮制の高校で集団感染が発生しました。また2023年には、盛岡市内の大学でも集団感染がありました。 職場健診に関しては2010年から、一定の条件のもと、省略が可能になっています。ただし厚生労働省が提示する条件には「医師(会社の産業医)が必要でないと認めるとき」とされています。産業医としては、必要か不要かを一人ずつチェックしなければならないし、安易に「不要」とは言いにくいので、実際に省略している会社は、あまり多くないかもしれません。さらに20歳、25歳、30歳、35歳の「節目健診」と、雇用時の健診では必ず撮ることになっています。また40歳以上になると、毎年全員が受けることになっています。 早い話、就職したら、毎年1回はレントゲンを受けなければならないと思っておいたほうがいいでしょう。 ではレントゲン検査で肺がんが見つかる確率はどのくらいでしょうか。 はっきりした数字は出ていませんが、肺がんのみに特化した「肺がん検診」の数字は分かっています。それによると、見つかるのは受診者1万人当たり3人程度だそうです。 肺がん健診では、正面と側面の2枚の撮影が推奨されています。正面のみだと、肋骨や背骨、心臓の陰に隠れて、がんが見えにくいことがあるからです。しかし職場健診で撮るのは、普通は正面からの1枚だけ。しかも読影する医師の技量に大きなバラつきがあると言われています。 またレントゲンでは写りにくいがんもあります。ごく早期の肺がんには、「すりガラス状陰影」と呼ばれる淡い影しか現れないことが多いのですが、CT検査をしないと見つけにくいと言われています。