「僕はプロになれなかったから…同じことをさせたらアウト」なぜ“岩手の奥地の大学”から一挙6人のプロ野球選手が? 39歳監督の「超合理的」思考法
今年も大きな盛り上がりを見せたプロ野球のドラフト会議。中でも衝撃的だったのが、1つの大学から“史上最多”となる6人もの選手が指名を受けた富士大の存在だ。大都市とは異なる北国・岩手の地で、一体どんな育成が行われているのだろうか? 《NumberWebルポルタージュ全3回の3回目/最初から読む》 【写真】「ホ、ホントに何もない…!」ドラフトで6人指名の“虎の穴”岩手の奥地・富士大に潜入…「50kg超!? こんなダンベル見たことない」39歳若手監督のフィジカル重視“超合理的トレーニング”も現地写真で見る(50枚超) プロ野球という高みを目指し、夢を叶えることができないまま、現役を終える数多の野球選手たち。今秋のドラフト会議で6選手が指名された富士大学野球部で監督を務める安田慎太郎も、かつてその「数多の野球選手」のひとりだった。
指導者になる際、選手としての経験則は「全部捨てた」
東北学院大学の同期だった岸孝之(楽天)は、希望入団枠で西武から指名を受けた。安田は大学卒業後、外野手として「岩手21赤べこ野球軍団」に入団。岩手県勢として20年ぶりの都市対抗野球大会出場に貢献し、資金難でチームが休部して以降も、NPB入りを目指して国内外の独立リーグでプレーした。だがドラフト指名は叶わず、同期の華やかな活躍を見届けながら静かに現役生活を終えた。 「指導者になるにあたって、選手としてやってきたこと、経験則の部分はほぼ全部捨てました。自分がプロになれなかったんだから、同じことをやらせたら絶対にアウトじゃないですか。指導者としての理論は、9割9分、引退後に学んだことです。ただ唯一ウェイトトレーニングだけは、やってから明らかに打球が変わった。特に野手に関して、ウェイトは絶対に必要だというのはありました」 2016年に富士大のコーチに就任して以降、多くの文献を読み漁り、国内外の動画をチェックして、徹底的にトレーニング理論を学んだ。2年生のある野球部員は「監督はトレーニングの引き出しがめちゃくちゃ多いんです」と証言している。 2020年の監督就任後は、選手たちのフィジカルを重点的に強化する方針を打ち出した。 「僕がコーチのときは投手にウェイトはやらせていなかったんですが、野手の打球速度と同じで、投手の場合も除脂肪体重が多いほうが球は速くなるというデータが論文で出ていた。やっぱり投手もウェイトからは逃げられないな、と。そうやってデータに基づいて、フィジカルを重視するいまの指導法になっていきました」 自分が届かなかったプロの世界に、ひとりでも多くの学生を送り出す。 執念といってもいい安田の思いが表れたエピソードがある。2023年の明治神宮大会、のちに広島から2位指名を受ける左腕・佐藤柳之介が、準決勝の青山学院大戦を前に「中2日での登板」を志願したときの話だ。 佐藤は初戦で上武大をわずか3安打に抑えて完封していた。チームの勝利のために「投げたい」と直訴する佐藤に、安田は言った。 「あらためて確認するけど、なんのためにウチに入ってきたんだ。上位指名でプロに入るためだよな。それを忘れてないか? いま、怪我したら終わりだよ。一番大事な目標を一時の感情で見失うな。いくら言っても、俺は使う気はないよ」
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