<TPP交渉をきっかけに議論に> 著作権侵害が「非親告罪化」したらどうなる? 弁護士・中川隆太郎
環太平洋連携協定(TPP)の交渉で、著作権侵害を「非親告罪」に変更する方向での調整が進められていると報じられている。映画、音楽、アニメなどの著作権侵害は、現在の日本の法律では、被害者の「告訴」がなければ起訴・処罰できない犯罪、「親告罪」とされている。著作権侵害が「非親告罪化」した場合、どのような問題が起こりうるのか。また、この問題を考える際の論点は何なのか。演劇、映画、出版など、様々な創作活動の法的問題や著作権にくわしい、弁護士の中川隆太郎氏に寄稿してもらった。 --------------------- ここ数年、「非親告罪化」という言葉をメディアで目にする機会も増えています。被害者の告訴がなければ起訴・処罰できない犯罪を「親告罪」といい、日本では現在、著作権侵害は親告罪と定められています。これを被害者(この場合は著作権者)の告訴がなくとも国の裁量で起訴・処罰できるように制度を変えてしまおうという制度変更が「非親告罪化」です。
きっかけはTPP(環太平洋経済連携協定)
この「非親告罪化」が一躍有名になったのは、TPP(環太平洋経済連携協定)のメニューとして米国から要求されていると報じられたのが要因でしょう。TPP交渉は今なお秘密協議のまま進められていますが(※1)、ウィキリークスなどのNGOからのリーク資料や多数の報道に加え、2月にはNHKでも「日本も受け入れる方針」と報じられるなど、TPPによる著作権侵害の「非親告罪化」の見通しはますます高まっています。 しかし、この非親告罪化により、日本社会におけるコンテンツをめぐる『グレーゾーン/暗黙の領域』において決定的な萎縮効果が生じるおそれがあります。 よく例として取り上げられるのがパロディです。コミケなどの同人文化では既存作品のパロディが人気ですが、これらのパロディ作品の中には著作権侵害に当たるものも少なくありません。それでも表立って「お咎め」を受けることが少ないのは、おそらくは基本的にはファン活動であることに加え、販売方法(場所や期間等)や表現内容などの点で「権利者にあまり迷惑をかけない」「目立ちすぎて怒られない」よう配慮をしていることを考慮し、権利者も「暗黙の領域」としてあえて放置しているケースが少なくないからでしょう。 また、動画投稿サイトなどを中心にユーザーが二次創作したコンテンツ(User Generated Contents; UGC)が世界中で盛んになるにつれ、例えばYouTubeがJASRACと包括許諾契約を結ぶなど、国内外の様々なプラットホームにおいてUGCの適法化に向けた権利処理の工夫が重ねられていますが(※2)、いまだ手当てがなされていない部分も残っています。そのため、例えばユーザーが、プラットホームと未契約のレコード会社のCD音源を利用した「歌ってみた」や、オリジナリティの高い振付にチャレンジした「踊ってみた」などの動画を投稿する行為も、別途追認されない限り(※3)、形式的には違法の可能性が高いのです。