「チー牛こそが女叩きをしている」という偏見…「男性=強者」という思い込みに隠された“弱者男性”という存在
映画『男はつらいよ』でも語られなかった、本当につらい男の人生とは。下がる実質賃金、増える社会保険料。それでも一家を養うのは男の仕事と期待され、稼ぎがなければ結婚もできない。そんな男性のいきづらさを、書籍『弱者男性1500万人時代』の作者、トイアンナが語る短期集中連載、第2回目は「新しい男性を差別する言葉、チー牛」について語ります。
またたくまに広がった「チー牛」という差別用語
あなたは、「チー牛」というネットスラングをご存じだろうか。 これはオタクや隠キャ、またコミュ障といった男性に対して使われる蔑称で、弱者男性を揶揄(やゆ)する際にも使われる。 もともとは牛丼チェーン店の人気メニュー「三食チーズ牛丼」を指す言葉だった。しかし、当時高校生だった、いびりょさんが2008年頃に描いた「すいません、三色チーズ牛丼の特盛りをお願いします」と、メガネをかけた男性が無表情で注文している画像が2018年頃にネット掲示板で拡散し、旗色は変わった。 偶然、その自画像が多くの方がイメージする「モテないオタク」を忠実に再現していたことを理由に、男性を差別する表現へ使われるようになったのだ。そして、ありとあらゆる罵詈雑言が、チー牛とみなされた男性へ向けられ始めた。 チー牛という単語は、これまでに「オタク」「根暗」「陰キャ」「非モテ」「童貞」といった、多数の(特に)男性をバカにする単語の集大成とも言えるフレーズである。また、非モテという単語が、生きづらさを抱える男性を意味する「弱者男性」と混同され、いっしょくたにして扱われる傾向がある。そのため、弱者男性の支援を訴えてきた著者としては、看過できなかった。
誰もが笑顔で「チー牛」と“イジる”
チー牛は現在、弱者男性を差別したい時に、もっとも気軽に使われるフレーズといえるかもしれない。たとえば、Xで「チー牛」と検索すると、以下のような投稿がわんさか出てくる。 「美人の投稿に、チー牛からの嫉妬にまみれたコメントが多すぎる。あいつらブサイクだからって、金持ちと容姿に恵まれた人に対して噛みつきすぎでしょ」 「異性関係をこじらせた結果、チー牛になる男性って異性との関わりないんだよね、やっぱり。大学時代に、女子から嫌われてたのって思い出せばみんな男子校出身者だったわ……」 著者註:そのまま引用すると、投稿された方へのバッシングにつながるため改変いたしました。 しかし、もしこれらの投稿が男女で逆転していたら、みなさんはどう思うだろうか。 「三色チーズ牛丼を食べていそうな女は、情けで優しくすると急につけあがる」 「チー牛女は距離感の詰め方が異常、仲良くなっても面白くなくて不快」 などとSNS上で書いたら、炎上必至だろう。 だが、2024年現在はそうならないのである。 このように、SNSやインターネット上で「ブサイク」「キモい」と叩いて揶揄(やゆ)することになんのなんの違和感ももたれない男性への差別用語、それがチー牛なのだ。
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