メキシコ議会で公開された「宇宙人のミイラ」 真贋めぐり「科学」かざした大論争
「未知との遭遇」を果たすことになったのは、メキシコ市にある小さなクリニックの診察室だった――。2023年9月に開かれたメキシコ議会の公聴会で発表され、世界に衝撃を与えた「宇宙人のミイラ」とされる物体と対面したのだ。ミイラ騒動の背景を探ると、さまざまな人間模様が見えてきた。(星野眞三雄=GLOBE編集部員) 【写真】メキシコ議会の公聴会で発表された「宇宙人のミイラ」
3月上旬、メキシコ市の中心部から西に位置するオフィス街。「詳しい場所は明かさないように」。クリニックを経営するマルティン・アチリカ氏(58)が念を押す。盗難や脅迫のおそれがあるため、ミイラがしまってある倉庫の場所も含めて公にはしないという。 マスクとゴム手袋をつけたアチリカ氏が診察室に案内する。いよいよ「ご開帳」だ。アチリカ氏が診察室のベッドを覆っていた青色のシートをめくると、映画の「E.T.」を小さくしたような姿のミイラが横たわっていた。 体長は60センチ程度。表面は白い粉のようなものに覆われ、手足の指は3本で、右手の1本と足のほとんどの指は欠けている。地上絵で有名なペルーのナスカ周辺の洞窟で他の10~12体とともに発見されたという。2体がメキシコに送られ、調査の結果、脳や臓器は乾燥していて、女性とみられるミイラにはおなかのあたりに卵のような物が3個見つかった――。 アチリカ氏はひとしきり説明した後に言った。「世界中のメディアから依頼が殺到しているが、実物を見せたのはロイター通信と日本のテレビ局だけだから3社目だ」 このミイラはメキシコ議会の公聴会で、ジャーナリストのハイメ・マウサン氏(70)が発表した2体のうちの1体だ。 マウサン氏は自らの会社のオフィスで断言した。「メキシコ、ペルー、カナダの大学や研究機関で、X線やCTスキャン、DNA検査、放射性炭素年代測定などをした結果、1000~1400年前の宇宙人の死体だと確信している」 公聴会はマウサン氏が与党「国家再生運動」の有力議員に働きかけ実現させた。世界中のメディアがミイラのことを報道し、大きな注目を集めた。