船底が「赤い」のはなぜか、知ってる? 実は明確な理由があるんです
環境に配慮した新しい塗料の開発
船舶設計では、国際的な地球温暖化問題への対策として二酸化炭素の削減を目指す新しい技術が次々と開発されている。船底塗料もその一環で、特に低摩擦塗料が注目されている。 低摩擦塗料は、製造業者によって技術は異なるが、従来の塗装と比べて防汚性が高く、長持ちするように設計されている。また、塗装の表面が滑らかになり、摩擦抵抗を削減できる。低摩擦塗料が船舶業界で注目される理由は、その大きな燃費改善効果にある。船体の摩擦が減ることで、同じ速度で走行するために必要な燃料が少なくなり、コスト削減につながる。 船型や主機は就航後には簡単に変更できないが、塗装であれば定期ドックのタイミングなどで比較的容易に変更できる点も評価されている。フジツボは高圧洗浄で除去できるが、完全に除去するのは難しく、追加の費用が発生する場合もある。低摩擦塗料はフジツボが付着しにくい環境を提供するため、運用コストの面でも効果がある。 燃料の消費が減少することで、船舶が排出する二酸化炭素の量も減り、環境への負荷を軽減できる。このため、特に環境規制が厳しくなっている現代において、低摩擦塗料の導入は非常に重要な技術となっている。
海洋に悪影響を及ぼす防汚塗料
防汚塗料に含まれる成分が環境に悪影響を及ぼすとして、規制された例もある。 2001(平成13)年10月に開催された国際海事機関(IMO)の外交会議で、2001年の船舶の有害な防汚方法に関する国際条約(AFS条約)が採択され、2003年1月1日以降、全ての船舶において殺生物剤として機能する有機スズ化合物を含む防汚塗料の塗装が禁止された。 これは、スズが巻き貝の生殖機能に影響を及ぼすことが認められたためだ。同様に、2021年6月の決議MEPC331(76)では、新たにシブトリンが海洋環境に悪影響を与えることが確認され、禁止防汚剤として追加された。 船底塗料は海洋に溶け出すことで効果を発揮するため、環境に悪影響を及ぼす成分は禁止されている。そのため、代替の成分の使用や、常に環境に優しい技術の導入が求められている。
持続可能な航行を支える技術
船の底が赤く塗られる理由は、単なる装飾ではなく、船舶の運航において非常に実用的な役割を果たしている。 歴史的には、船底を守るために防汚や腐食防止の塗料が使用されてきたが、その塗料が赤色であったことから、今でも多くの船底が赤く塗られている。 船底に使用される塗料の進化は、船を守るだけでなく、航行の効率化やメンテナンスコストの削減にもつながる。特に低摩擦塗料の導入は、燃料消費量の削減や二酸化炭素排出量の抑制に大きく寄与すると期待されている。 今後、船底塗料の技術革新が進むなかで、船舶業界は効率性と環境への配慮を両立させ、持続可能な運航を実現していくことが求められるだろう。
岩城寿也(海事ライター)